依然として停戦の見込みが立たないロシア・ウクライナ戦争ですが、昨年11月、ウクライナ軍が「ロシア軍がウクライナ東部への攻撃の中でICBM(大陸間弾道ミサイル)1発を発射した」と発表したのは記憶に新しい。
もしも本当に使用されたとすれば、人類史上はじめて実戦でICBMが使われたことになります。
ただ、ウクライナの発表当初から、その信憑性には疑問符がついていました。
実際、その直後にロシアは、「大陸間弾道弾ではなく、より射程の短い新型の中距離弾道ミサイルを使用した」と公式に発表しています。
大陸間弾道ミサイルという名前からもわかるように、ICBMは非常に射程の長いミサイルのことです。
一般的な解説書では射程5,500km以上のものがそのように言われていますが、現実の射程距離は1万kmを優に超えることもあるらしい。
これだけの射程距離となると、保有国にとっては二つの大きな意味をもつことになります。
一つ目は、その国の周辺地域だけでなく、全世界に戦火を広げることが理論上可能となります。
ICBMは核兵器の搭載も可能ですので、遠く離れた国であっても完全に破壊することができるわけです。
二つ目は、相互確証破壊理論を保つことにつながるということです。
例えば、充分な核兵器を保有している国同士で戦争が勃発した場合、いずれかの国が核兵器を使用すると、もう一方の国も核兵器を使わざるを得なくなり、さらにその報復として核兵器を使用するといったように互いにエスカレートしていき完全に共倒れになることから、結果として核兵器の使用が抑止される、というものです。
要するに「相互確証破壊」とは、理性的な為政者であれば、双方そのような事態を避けるように行動するため、充分な核兵器を持つ大国同士の核戦争は発生しないだろう、という概念です。
実に危うく感じる理論ですが、これにより冷戦時代にあっても米国とソ連が全面戦争に至ることはなかったという考えを否定することはできません。
因みに、ICBMの発射基地を先制攻撃して無力化することは不可能です。
ICBMは陸上から発射されるだけでなく、世界中を巡航している原子力ミサイル潜水艦にも搭載されているため、どこから発射されるかを把握することは不可能です。
このように、ICBMの保有と使用は、その国の核兵器及び核戦略に大きな影響を及ぼします。
昨年11月に「ロシアがICBMを使用した!?」というニュースが流れた途端に国際社会が騒然となったのも、上記のとおりICBMと核兵器は密接に結びついており、ICBMの使用は「核兵器の使用をも厭わない!」という意思表示ともとれるからです。
さて、いまや北朝鮮はICBM(火星18)を開発し、弾頭数は圧倒的に少ないとはいえ核兵器で米国の都市をも攻撃する能力をもつようになりました。
そのため、自国が反撃されるリスクを冒してでも米国様が日本や韓国への安全保障コミットメントを果たすかどうかが問われるようになっています。
因みに、米大統領に返り咲いたドナルド・トランプ氏は、従来より日韓同盟に否定的な見解を示してきました。
今なお、そうです。
もしかすると、北朝鮮の核の兵器庫が拡大するにつれ、そして後ろ盾としての米軍の信頼が失われていくにつれ、韓国では核武装オプションへの支持が高まるかもしれません。
むろん、トランプ大統領も米軍も韓国の核武装を認めることはないでしょうけど。
わが国が2026年に納入予定だったトマホーク(巡航ミサイル)を一世代前の型式に格落ちさせてまで前倒しで納入するのも、台湾有事の高まりはもちろん、北朝鮮のミサイル能力が向上したことへの対応です。
迫る事態への即応力を考えれば、今は外国製で代用するのも致し方ありませんが、やがては国産化を可能にしなければわが国の防衛力は益々もって弱体化することになります。
兵器を外国に依存する国は、供給国に隷属しているのと同じです。