政府は、半導体の設計支援に本腰を入れるため、今年度の補正予算と来年度の当初予算案で1600億円を計上するとのことです。
予算の規模はともかく、所管官庁である経済産業省としては、半導体製造の上流工程の研究開発にも力を入れなければならないと考えているのでしょう。
半導体には、パソコン等のCPUに使われているロジック半導体、同じくパソコン等の記憶デバイス(DRAMやNAND等)に使われているメモリー半導体、電気自動車等に使われるパワー半導体のほか、ソニーが得意とするところのイメージセンサー、あるいは部屋の電気等の切替を行うアナログ半導体等々、複数の種類に分類されます。
これら半導体を製造するためには、「設計ツール」、シリコンウェハーなどの「素材」、露光装置などの「製造装置」が必要となり、生産にあたっては「前工程(ファンドリー)」「後工程(OSAT)」に分類されます。
工程数は、前工程だけで700工程を超えます。
以前にも申し上げましたとおり、これらを全て一カ国で完結する国は世界に存在しません。
覇権国である米国様でさえ不可能です。
米国の場合は「設計」に特化し、ほぼ独占状態です。
つまり、米国の企業(例えばEDAなど)がもつ設計ツールがなければ、いずれの国も半導体を作ることはできません。
あるいは、シリコンウェハーにトランジスタを焼きつける際に必要となる露光装置は、オランダのASMLという企業による一社独占です。
シリコンウェハーなどの素材は、日本が強みをもっています。
ゆえに、半導体の国際的な生産サプライチェーンを抑えようというのが米国の半導体戦略です。
日本の熊本にTSMC、あるいは千歳にラピダスなどのファンドリーを誘致させたのもそのためです。
一方、中国は、一国で半導体の生産を完結できるように試みたのですが(中国製造2025)、完全に失敗に終わっています。
中国の半導体製造においても、やはり露光装置はASML(オランダ)製ですが、なんと米国はオランダに中国への露光装置の出荷を一部停止させたのは記憶に新しい。
それだけではありません。
米国はオランダ政府に対し、メンテナンスのために中国に常駐しているASMLの職員をも帰国させるよう要請しています。
すなわち、米国はオランダの一民間企業に対して「3割の市場を捨てろ」と平然と言ってのけるわけです。
むろん、ASMLは一民間企業です。
それを他国の政府が出荷停止を要請するなど内政干渉も甚だしい。
しかし現実には、他国(米国)の政府が一民間企業の経営について指図する時代がついに到来したのです。
TSMCの創業者であるモリス・チャン氏の言うとおり「自由貿易はすでに死んだ」のです。
自由貿易の死とは、すなわちグローバリズムの死を意味しています。
こうした時代にあっても川崎市役所などは今なお、グローバリズムを前提にした計画のままに行政が運営されています。
議会答弁でも「これからはグローバル化の時代ですので…」という枕詞をつける局長や課長は多い。
おそらくこの種の人たちは、「グローバル化」の意味を理解していないのでしょう。