基軸通貨と石油

基軸通貨と石油

原油価格が急騰しています。

1月13日、原油先物市場の指標価格であるWTI(翌月渡し)は一時的に1バレル=79ドル台まで上昇し、5か月ぶりの高さとなりました。

(注:上のグラフは、先物ではなく現物価格の昨年11月までの推移)

市場関係者によれば、先物市場で急騰している理由は、1月10日に米国政府がロシアの石油産業に対する経済制裁の強化を発表したことが大きな材料になったとのことです。

上のグラフをみますと、ロシア・ウクライナ戦争や中東情勢の不安定化もあり、原油価格もまたコロナ以前の価格水準を維持することは難しいようです。

一方、ことし2025年の原油市場をめぐっては、需要減少や供給拡大といった原油価格の下落を思わせる発表も相次いでいます。

例えば、1月20日に就任するトランプ次期米大統領は原油生産を後押しする立場を強調していますが、トランプ大統領の思惑通りにいくかどうかは不透明です。

何しろ米国は、まだまだ圧倒的な軍事力を有しつつも、とりわけ経済面においては覇権国としての力を失いつつあります。

米国が産油国に対して増産を求めても、ここのところ産油国が言うことをきかないケースもしばしばですし、石油をドル以外の通貨で輸出することも検討されているらしい。

もしもそれが許されるとなると、いよいよ米国は覇権国ではなくなります。

忘れもしない、今から25年前の2000年、イラクのサダム・フセイン大統領(当時)は「石油のドル建てでの販売を止め、ユーロ建てでの販売に切り替える」と発表しました。

「イラクの石油はイラクのものだ。ルールは自分たちで決める!」

これがフセイン大統領の主張で、その後のイラクは2003年までに260億ユーロの石油を売り上げました。

ところが、その年の3月、米国(当時はジョージ・W・ブッシュ大統領)は、イラクが持つとされる大量破壊兵器の除去、イラクの非武装化、イラク市民の解放を理由にしてイラクに軍事侵攻を開始しました。

圧倒的な軍事力の差から、イラクは敗北。

フセイン大統領は米軍に捕らわれて処刑。

イラクは元通り、ドルで石油を売るようになったわけです。

しかしながら、戦争を仕掛けたものの、蓋を開けてみたら「大量破壊兵器」などイラクのどこを探しても見つかりませんでした。

100万人のイラク人は、いったい何のために犠牲になったのでしょうか。

当時の中東米軍総司令官ジョンアビサイド氏は、後に次のように述べています。

「(イラク戦争は)もちろん石油が原因だよ。それは否定できない」と。

あるいは、リビアの指導者であったカダフィ大佐も同様の憂き目に遭っています。

ご存知ない方もおられるかもしれませんが、リビアはアフリカで最大の石油埋蔵量を誇る国です。

一人当たりのGDPはアフリカでも最も高く、そのリビアをカダフィ大佐は大陸でもっとも影響力のある国にしようしていました。

そのため、カダフィ大佐はアフリカ諸国に対し、ドルの代わりに金を用いた新しい通貨での石油売買を提案したのです。

はて、次に何が起きたのか、想像は容易です。

米国は「自由」の名のもとにリビアにNATO軍を送り込み、首尾よくカダフィ大佐を血祭りに上げました。

同様の話は、ヴェネズエラもしかりです。

2002年当時、世界最大の石油埋蔵量を誇るヴェネズエラでは、チャベス大統領による独裁政権が敷かれていました。

米国嫌いのチャベス大統領もまた、ドルではなくユーロ建てによる石油売買に大きな興味を示していました。

そんなヴェネズエラに、突如としてチャベス政権に対するクーデターが発生します。

当然のことながら、米国はそれを支援。

(ていうか、どう考えてもクーデターを仕掛けたのはCIAでしょう)

クーデターは失敗に終わったものの、国内政治は一層不安定化し、ヴェネズエラ経済は崩壊。

現在、ヴェネズエラは世界で最も貧しい国の一つになりました。

このように、米国様が決めた「石油取引はドルで行う」ルールを脅かした国や指導者は悉くひどい目に遭ってきました。

なぜ、ここまでして米国はこのルールを維持したいのか。

むろん、基軸通貨としてのドルの価値が下がるのを恐れているからです。

はたして今後、米国はこのルールを守り続けることができるかどうか。