資本主義の定義を充たせぬ日本経済

資本主義の定義を充たせぬ日本経済

きのう(1月9日)、厚生労働省から11月の実質賃金の速報値が発表されました。

物価変動の影響を除いた実質賃金(現金給与総額)は、前年同月に比べマイナス0.3となり4カ月連続のマイナスとなりました。

残業代や各種手当てなどを除いた「きまって支給する給与」は前年同月に比べマイナス0.7%で、こちらは34ヶ月連続のマイナスです。

実質賃金の推移をみる場合、きまって支給される「基本給」の安定的な上昇こそが重視されるべきだと思うのですが、なぜかメディアは現金給与総額の推移しか報道しない。

一方、東京商工リサーチの調査によれば、介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産が増えています。

おそらく2024年の介護事業者の倒産件数は170件を超えるとのことで、介護保険法が施行された2000年以降、最大の倒産数となります。

昨年(2024年)の1月から10月までで145件が倒産しているのですが、倒産要因の第一は何と言っても人手不足です。

145件の倒産のうち、72件が深刻なヘルパー不足でした。

もともと介護職の給与水準は産業平均と比較しても月ベースで約10万ほど安い。

それに加えて実質賃金が下がり続けているなか、限られた人的資源で人手不足を補っているわけですから、介護現場の雇用環境がことさら厳しくなっていることが伺えます。

介護保険法が導入された当初から、介護職の給与水準をせめて産業平均にまで引き上げておけば、もっと状況は変わっていたにちがいない。

むろん、介護職の給与水準が低いのも、実質賃金が下落し続けているのも、その根本には常に財務省が主導する緊縮財政があります。

自国通貨建てで国債を発行できる政府の貨幣発行にインフレ率以外の制限など何もないのに。

1998年以降のわが国は一環してデフレでした。

2020年のコロナ以降、コストプッシュ・インフレが襲いかかっていますが、20年以上にわたってわが国の政府は財政支出を拡大する機会を逃してきたのです。

ただ、コストプッシュ・インフレであっても、その対策には財政支出の拡大が必要です。

コストプッシュ・インフレは供給能力の不足に伴うインフレですので、供給能力を引き上げるための投資が必要となりますので。

にもかかわらず、わが国においては財務省のみならず、政治家、メディア、学者までもが、口を開けば「財源がぁ〜」と叫んできたのです。

彼ら彼女らはみな「信用創造」を理解できておらず、貨幣(財源)は「無」から創造できることを知らないのでございます。

因みに、信用創造を理解できないということは、そもそも資本主義を理解できていないということです。

資本主義の未来を予見したジョセフ・シュンペーターは、資本主義の定義の一つに「民間銀行による決済手段の創造」を入れています。

この「民間銀行による決済手段の創造」こそ、まさに信用創造です。

銀行は無から預金を発行できるし、政府は無から貨幣を発行できる。

これを理解できなければ資本主義を理解したことにはならない、とシュンペーターは言っています。

不思議なことに、資本主義を理解できていない政治家たちが何食わぬ顔をして「新しい資本主義」を公約に掲げ、貨幣とは何かを理解できぬ役人たちが平然と健全財政を語る。

恥を知らぬ者は恐ろしい。