既に3回目となる緊急事態宣言が発出されたものの、出口戦略を描ききれない政府はやむを得ず緊急事態宣言を延長することになりました。
ワクチンの接種率を引き上げ、集団免疫ができるという見込みが立つまでは「なんとか時間を稼ぎたい」というところでしょう。
もともとコロナ特措法(新型インフルエンザ特措法)には強制力がなかったことから、私はこの法律を「竹光特措法」と揶揄していましたが、強制力のない法律の無意味さをようやく理解することができた為政者たちは遅まきながら法改正し特措法に多少の強制力をもたせました。
とはいえ、改正特措法は要請に従わない事業者に対し、まずは現場に赴いて改めて要請を促し、それでも応じない場合は要請に従うよう命令をし、それでも応じない場合はじめて過料(罰金ではない)を徴収するという、実に腰の引けた法律になっています。
しかも過料は最大で30万円。
例えばカナダでは、海外からカナダに帰国した国民に対し自宅での14日間の自粛隔離を義務付ける命令を出していますが、それに違反した者は最大で75万カナダ$(日本円にして約5800万円)の罰金か、最長で禁固6ヶ月という厳しい罰則を用意しています。
概ね感染封じ込めに成功した国をみると、まず早い段階で充分なる「補償」と強制力ある「ロックダウン」を行っています。(そもそも強制力がなければ都市封鎖など不可能)
その上で速やかにワクチンを承認するとともに確保し、接種率の向上に力を入れ集団免疫を獲得していくという戦略をとっています。
一方、我が国の政府は、国民の命よりも財政規律(プライマリーバランス)のほうが大事なものだから充分な補償を出さず、竹光特措法によりロックダウンも実に中途半端。
そして、ひたすら国民に自粛を要請するばかり。
米国のコロナ対策費はすでのGDPの30%ちかくの額にのぼっていますが、日本のそれはGDPの16%弱です。
菅政権は多少の協力金で「店を開けるな…」と言うけれど、どれだけの事業者と従業員が所得を失うと思っているのか。
むろん、その協力金で平素の売上の何倍もの収入を得た個人事業主もおられるかもしれませんが、国家的危機に直面した今、そんなことはさしたる問題ではありません。
それよりも職と命を失う人を増やしてしまうことのほうがよほどに問題です。
さて、ここにきて致命的なのは、我が国だけがワクチンの承認と確保が遅れてしまい、未だに接種率が低いことです。
今回、緊急事態宣言を延長するに至ったのも、ワクチン接種が思うように進んでいないことが一因となっています。
欧米諸国は昨年の段階から既にコロナワクチンの準備を着々と進めていました。
だが、そのとき日本では、多くの専門家たちが迅速なワクチン承認の必要性について次のように述べていました。
①海外での進捗状況や副作用の発現を慎重に見極めてからやるべきだ!
②日本人は人種的に特殊だから再度の治験を行う必要がある!
…メディアも概ねこうした意見に同調していたように記憶しています。
結果、世界で唯一我が国だけが自国民で治験をやり直すことになりました。
このことが日本でのワクチン承認が遅れた最大の原因です。
例えばEU諸国ではドイツでしか治験を行っていませんが、米国での多人種によるデータに基づいて昨年の12月には既に承認しています。
アジア諸国でも、例えばシンガポールは米国の治験だけで承認を済ませています。
といって、これらの国々では、迅速に許可した政府への不満の声など上がっていません。
要するに無責任な専門家たちの非科学的な意見が、我が国のワクチン承認を遅らせたのです。
無責任と言えば、先日、自衛隊の前統合幕僚長の河野氏が、厚労省のワクチン対応について「戦略が全く疑問」「完全に失敗した」と言って厚労省を批判していました。
しかしながら、厚労省による処理期間は決して遅くはありません。
第Ⅰ相治験と第Ⅱ相治験だけでも通常は1年程度を要するところ、厚労省とファイザー社は諸外国にに比べ4ヶ月も承認が遅れている現実を踏まえ、治験及びその解析や審査などを含めてわずか4ヶ月で済ませています。
それを「厚労省の怠慢」だの「厚労官僚は臆病者」だのと批判するのは、前統合幕僚長の勇み足かと思われます。
繰り返しますが、日本でのワクチン導入が4ヶ月も遅れた最大の理由は、日本だけが治験をやり直したことに依ります。
その「治験のやり直し」を決断したのは厚労官僚ではありません。
ゆえに厚労官僚に責任があるかのような意見は、臨床治験の仕組みを知らずに発言しているとしか思えません。
自衛隊は生物兵器や化学兵器にも対応する軍事組織であるはずです。
であるならば、陸海空自衛隊のトップである統合幕僚長たるもの、ワクチンの承認過程がどのようなものかをきちんと理解しておくべきです。
そうした理解があるのなら、むしろ治験、解析、審査をスピーディにこなした厚労省を褒めるべきところではないでしょうか。
自衛隊のトップを務められた人がその程度の知識で、我が国はBC兵器(生物兵器・化学兵器)に対応できるのでしょうか。
因みに、もっと許せないのは、前述の①②を主張していた専門家らが、海外でワクチンの成果が上がっていくにしたがって、今更のようにワクチン推進派に豹変していることです。
そのことは、ワクチン接種そのものに反対してきた野党も同様です。
立憲民主党などは参議院での法案審議(参考人質疑)の際には、ワクチン反対派の参考人を招致していたほどです。
はなっからこの党が「ワクチン接種など必要ない」と考えてた証です。
それを今頃になって「政府のワクチン対応が遅い」などと批判するのは卑怯です。
むろん、政権与党にも明確なワクチン戦略があったわけではないことも事実ですが…