懸念すべきは医療費ではなく、医療人材の確保

懸念すべきは医療費ではなく、医療人材の確保

WHO(世界保健機関)は、数年ごとに世界各国の「健康達成度」を発表しています。

健康達成度とは、各国の①健康寿命、②健康寿命の地域格差、③患者の自主決定権や治療への満足度などの達成具合、④地域や人種などによる患者対応の差別の程度、⑤医療費負担の公平、以上5つの基準をもとにその達成度を評価するものです。

我が国の健康達成度の総合評価は世界一で、平均寿命のみならず2019年の調査では健康寿命も世界一となっています。

WHOの評価基準に合わせて表現すれば、「人々が長生きし、寿命の地域格差がなく、患者が自ら治療を選択することが可能で、治療への満足度が高く、病院が患者対応に際して差別を行わず、医療費を国民全体で負担し合っている」という理想的な医療環境に最も近いのが、この日本であるということになります。

にもかかわらず、私たち日本国民が負担している医療費は、それほど多くありません。

例えば、我が国のGDPに占める医療費は11.4%で、主要国(G7)の中では第4位でほぼ平均的な規模ですが、医療費の公費負担比率をみますと、G7の中ではトップクラスです。

米国などは、日本よりも医療費の対GDP比率が高いにもかかわらず、公費負担比率は日本よりも少ない。(下記グラフ参照)

そうなってしまう理由は主として、米国の医療保険は基本的に民間経営で、営利ビジネスとして利益を追求するために行われているためです。

「米国では、恐ろしくて虫歯にもなれない…」などと言われているくらいで、低所得者が入院などしたら自己破産するほどです。

どんなに医療費が高くても、それに見合うだけの高度な医療サービスを手に入れることができるのであればよいわけですが、WHOのランキングをみますと、世界一高い医療費を使っていてもなお、米国の健康達成度は15位、健康寿命は29位となっています。

平素、私たちが当たり前のように受けている医療サービスの水準は紛れもなく世界一であることを、日本国民は改めて知るべきです。

しかしながら、今朝の日本経済新聞が「国民医療費、22年度4%増の46兆円 2年連続で最高更新」という見出しの記事を書いて、あたかも医療財政が破綻しそうなイメージづくりに躍起になっていますが、我が国が抱えている医療問題は「人手不足」であって「医療財政」ではありません。

私たち日本国民が享受している医療サービスは主として医師や看護師の献身によって支えられています。

かつてヒラリー・クリントンが国務長官時代に日本を訪れた際、「日本の医療は、医療関係者の聖職者的な献身によって維持されている」と発言しています。

そうした聖職者的な献身者が今後は不足していくことに課題があるのであって、日本経済新聞が言うような医療費の増大など問題に値しない。

なぜなら、我が国の国内生産能力が維持されているかぎり、日本政府の通貨発行能力(財政力)に上限などないのですから、医療であれ、年金であれ、財政が破綻することなど絶対にあり得ません。

ただ、政府が財務省の主導する緊縮財政(財政収支の縮小均衡)路線から脱却できず、歳出拡大政策を拒み続けているため、デフレ(総需要の不足経済)を払拭することができず我が国の国内生産能力は毀損され続けています。

そのこと自体が大問題です。

この30年間ちかく我が国は「財政が破綻するぅ〜」→「財政の引き締め」→「デフレ化」→「国内生産能力の破壊」→「通貨発行能力の低下」→「財政が破綻するぅ〜」という愚かなスパイラルに陥っています。

ネオリベ新聞の日本経済新聞社が、どうしても「医療費が増大しているぅ〜」と煽りたい理由はわかります。

彼らは、我が国に米国型医療制度を導入したいからです。

2010年ごろまでの自民党も、医療費の公的医療支出の削減、医療の株式会社化、混合診療の解禁など、米国型医療制度を目的とした構造改革をしきりに訴えていました。

今はどうなったのでしょう。

まるで、そんなことは無かったことのようになっていますが…

とにもかくにも、我が国においては医療費の増大など気にする必要など何もない。

気にすべきは「医療人材の確保」であり、日本経済の一刻も早い「デフレ脱却」です。