米国10年国債利回りが上昇していることを受けて、証券会社系のエコノミストや経済番組の解説者など株式市場関係者がインフレ懸念をことさらに強調しています。
といっても上記のグラフのとおり、上昇しているとはいえ金利水準は1.6%を上限にレンジ内に収まっています。
これをもって「インフレ懸念」を煽るのはいかがなものか。
低水準だった金利がマイルドに上がりはじめた、ということは即ち、市場が「景気が良くなる」と判断し、資金需要が高まっている結果でありそれの何が悪いのか。
バイデン新政権は、コロナ対策で約200兆円、加えて成長戦略で更に200兆円以上もの政府支出を行う計画を立てています。
そのことが景気への期待を高めているのですからインフレ期待が高まるのも当然の話です。
そもそも国債金利は中央銀行が操作できる政策変数なのだから、FRB(連邦準備銀行)が「金利水準が高すぎる」と判断すれば自ずとコントロール(ECC)するであろう。
一方、インフレを騒ぎ立てる人たちは消費者物価(CPI)ベースでも期待インフレ率が高まっていることを強調しているわけですが、これもまた金利上昇と同様に市場が「景気が良くなることを期待している」という証左です。
たしかに4月に入って米国のCPIは4%を超えていますが、かつて高度成長期の日本経済のインフレ率(GDPデフレーターベース)は約5%水準でした。
たった一ヶ月、4%を超えただけで「インフレ懸念」を煽るのは実に解せません。
そのことで株式などのマーケットをボラティリティを高めたいという株屋さん的な思惑もあるのでしょう。
この世には、働くことで所得を稼ぐ人たちと、金融資産を運用することで利益を稼ぐ人たちの2種がいます。
前者はGDPを創出しますが、後者は取引手数料以外はほぼGDPを産まない。
なお、マイルドにインフレ率が上していく世の中は前者を豊かにしますが、後者にとっては都合が悪い。
なぜならインフレ率の上昇は資産価値の下落を意味するからです。
だから彼らにとっては物価が上昇しないデフレ経済のほうが心地よい。
前述のとおり、米国はバイデン政権に変わり、トランプ政権以上の財政支出拡大政策をとっています。
政府支出の拡大はデフレ(需要不足)を払拭しますので、自然、インフレ率がマイルドに上昇していきます。
であるからこそ、金融で食っている人たちは政府に対し「緊縮財政」を求めるわけです。
1980年代から跋扈したグローバリズム=ネオリベラリズムの世界は、金融で食う人に寄り添うシステムだった。
しかしこれからの2020年代は、働くことで所得を稼ぐ国民のためのシステムを再構築しなければならない。