「多様な働き方」を理由にするのはネオリベ構造改革派の常套手段

「多様な働き方」を理由にするのはネオリベ構造改革派の常套手段

きのう川崎市議会の文教委員会で、ある陳情が審査されました。

陳情内容は、「保育所職員の配置基準改善と処遇向上のための必要な措置を求める意見書を国に提出してほしい」というものです。

地方議会は国に対し、地方自治法99条に基づく意見書を提出することができます。

ゆえに陳情者は、上記内容の意見書を川崎市議会として国に提出してほしい、と求めたわけです。

陳情が提出された背景には、国(厚労省)が策定した『新子育て安心プラン』があります。

『新子育てプラン』とは、待機児童を解消するために厚労省がまとめた行政プランで、令和3年度から6年度までの4年間で約14万人分の保育の受け皿を整備するというものです。

一見、ごもっともそうなプランなのですが、実はその中に「(一時的に)保育士のパート化を認めろ」とあります。

現行制度では…

①常勤の保育士が各組や各グループに1名以上(乳児を含む各組や各グループであって当該組・グループに係る最低基準上 の保育士定数が2名以上の場合は、1名以上ではなく2名以上)配置されていること

②常勤の保育士に代えて短時間勤務の保育士を当てる場合の勤務時間数が、常勤の保育士を充てる場合の勤務時間数を上回ること

…とされています。

それが『新子育てプラン』では…

常勤の保育士が充分に確保できずに子どもを受け入れることができないなど、市区町村がやむを得ないと認める場合には、各組やグループで1名以上の保育士を配置を求める規制を撤廃し、1名の常勤の保育士に代えて2名のパート保育士を宛てても差し支えないこととする

…となりました。

要するに待機児童を解消するための「規制緩和」です。

今年3月19日には、厚労省子ども家庭局長から各自治体に対して「パート保育士の取扱いについて」というお達しが出ています。

陳情者は、この一時的な規制緩和が全面パート化につながることを懸念しているわけです。

この懸念は理解できます。

実は去る4月から、看護師の日雇い派遣が解禁されたことをご存知でしょうか。

メディアはあまり報道していませんが、いつのまにか看護師の日雇い派遣が可能とされていたのです。

因みに看護師の日雇い派遣の解禁に一役買ったのが、例によってあの「規制改革推進会議」です。

規制改革推進会議とは、ネオリベラリズム(新自由主義)にもとづく構造改革を推進するための「総理の諮問機関」です。

なぜ、看護師の日雇い派遣を認めるようにしたのかというと、あまり知られていませんが、昨今、経営が立ち行かなくなった介護施設等を中国のファンドが買収しています。

むろん、やがて医療や介護の分野に外資ビジネスが参入できるようになることを見越しての買収です。

当然のことながら外資のみならず国内の民間ビジネスも参入するのも必至です。

そのとき、民間ビジネスが利益を最大化するために最も必要になるのが人件費の削減です。

看護師の日雇い派遣はその一里塚と言っていい。

昨年11月には、RCEP(ASEAN加盟10カ国+FTAパートナー5カ国が参加する包括的な経済連携協定)が締結されています。

この種の自由貿易協定は必ず国内規制の緩和撤廃を求めます。

例えばRCEPを見越してか、外国人医療ツーリズム病院の設置を求めている自治体すら既に存在しています。

少なくとも我が国には医療や介護の分野までをも民間ビジネスの対象にしている勢力が暗躍しているということです。

保育士のパート化についても同様で、厚労省は「今回は一時的な措置だ」としていますが、やがては全面解禁される可能性が大なのです。

厚労省の政治的パワーよりも、規制改革推進会議の政治的パワーのほうが大きいのは明らかです。

ゆえに時間の問題でしょう。

きのうの文教委員会での質疑で私は、そうした政治的背景があることを本市当局に対して説明させて頂きました。

局長を含め、出席された行政職員の皆様が「なるほど」という表情で頷いておられたのが私にとって多少の慰めとなりました。

そのことを把握した上で行政を運営するのと、把握もせず理解もせずに行政を運営するのとでは大きな違いがあるからです。

さて、陳情審査の結果はどうなったか。

採択(賛成)すべき、としたのは私と共産党だけ。

結果、採択少数で「不採択」となりました。

不採択(否決)すべき、としたのは以下の委員の皆様です。

自民党(石田康博議員、橋本勝議員、各務雅彦議員)、公明党(かわの忠正議員、田村伸一郎議員)、みらい(堀添健議員、押本吉司議員)、無所属の添田勝議員。

そもそも保育士不足を解消するのであれば、保育士の一時的なパート化を認めるのではなく、まずは国の財源をもって保育士の処遇を改善すべきです。

例えば、保育士の平均給与は産業平均のそれと比べても月額で10万円ほども安いので、せめて産業平均にまで給与水準を引き上げること。

その上で、上記陳情のとおり配置基準を改善するなどの措置を講じるべきだと思います。

きのうの委員会では、「三宅議員の意見もわかるけど、多様な働き方を認めるという考え方もある」という理屈で陳情を不採択とした議員がいます。

このボンクラ、あえて名前は伏せますが、まさにこの「多様な働き方を認めるべきだ」という意見こそ、派遣法改正に際して竹中某たち構造改革派が活用した大義名分の一つです。

派遣法が改正されて、どれだけのワーキングプアがでたと思っているのか。

どれだけの格差が拡大したと思っているのか。

どれだけの国益を損ねていると思っているのか。