我が国ではワクチン接種の開始が諸外国よりも4ヶ月も遅れました。
接種率7%以下(5月22日時点)は、ほとんど発展途上国並みの状態です。
依然として集団免疫獲得への道のりは遠い。
加えて大都市圏では3度目の緊急事態宣言が発令されるなど、出口の見えないコロナ・パンデミックにより国民経済は大きな打撃を受け続けています。
さすがに与党内からも新たな経済対策を求める声が高まっていますが、なんと政府は今国会では補正予算案を提出しないという。
提出しない理由は、補正予算案の編成には概ね約1ヶ月程度かかるがゆえに「もはや会期末まで時間がない」とのこと。
時間が無いなら国会を延長すればいいと思うわけですが、7月4日には東京都議選、7月23日には東京五輪が予定されているため不可能というわけです。
とはいえ昨年来、各種の経済指標が芳しくない状態が続いていたのですから、「時間切れ」を理由に補正を組まないのはおかしい。
端っから補正予算を組む気などなかったのだと思います。
必要な感染対策については2021年度に計上されている予備費の残額(4兆円)で対応するのだとか。
ある政府関係者は「4兆円あれば、あと半年はもつ」などと発言しているというから実に呑気なものです。
結局、できうる限りカネを使いたくない財務省、そして政府内に巣食っている健全財政派らの政治的パワーが圧倒的に強く、経済対策(財政出動)を求める勢力の政治力が甚だ弱いがためにこのような結果に至るのでしょう。
もっと言えば、誤った貨幣観をもっている人たちの政治力が、正しい貨幣観をもっている人たちの政治力を上回っているということです。
実に残念なことです。
健全財政を主張する人たちがもつ貨幣論はまちがいなく「商品貨幣論」です。
商品貨幣論によれば、貨幣は金や銀など貴金属のような内在的価値ゆえに交換手段として使用されているモノであると理解されています。
つまり、貨幣は支払いの際に受け取られるがために、金や銀などの貴金属による裏付けを必要とするのだ、というわけです。
しかしそれでは、1971年8月15日のニクソン・ショック以降、円や米ドルが貴金属の裏付けをもっていないにもかかわらず人々が交換手段として使用続けている現実を説明することがでません。
説明できないのは、商品貨幣論が間違っているからです。
経済の血液ともいえる「貨幣」の定義を正しく理解していない人たちの意見が政策に反映されているということは、血液とは何かを正しく理解していない人が医師として診察・診療・手術を行っているのと同じです。
そう考えると、ものすごく恐ろしい話です。
正しい貨幣理解は、商品貨幣論ではなく信用貨幣論です。
即ち貨幣は、貴金属のような内在的価値に支えられたモノではなく、債権(信用)と債務(負債)の関係を表券(明示)する記録媒体にすぎない。
だからこそ、インフレ率が許す限りにおいて主権通貨国政府の貨幣発行に上限はないのです。
何よりも国家財政の適切さは、財政政策の執行が経済に与える影響によって判断されねばなりません。
収支均衡ありきの財政運営は間違いです。