経済や財政を語るのであれば、絶対に理解していなければならないことがあります。
それは「誰かの黒字は、必ず誰かの赤字である」ということ。
もう少し厳密に言うと、「誰かの純資産の増加、もしくは純負債の減少は、誰かの純負債の増加、もしくは純資産の減少」です。
これを理解できないままにマクロ経済を分析することなど、とうてい不可能です。
マクロ経済分析においては、4つ経済主体があります。
①政府
②企業
③家計
④海外
家計が純資産を増やすためには、残りの経済主体(政府、企業、海外)のいずれかが赤字になる必要があります。
ここで言う「海外」とは要するに経常収支のことで、我が国では海外部門は常に赤字(経常収支の黒字)なのですが、解りやすくするために、とりあえず海外部門は「±0」と仮定しましょう。
その場合、家計が黒字になるためには、企業と政府が赤字である必要があります。
ここが重要なポイントで、実は企業や政府が赤字になるとは、民間経済に貨幣を供給したことと同義です。
政府が国債を発行して財政赤字をつくって支出をすると民間経済の貨幣が増えますし、企業が銀行から融資を受けて支出をすると、やはり民間経済の貨幣が増えます。
すなわち、一定期間における企業と政府の赤字の合計は貨幣供給の総額であり、これを「ネットの資金需要」といいます。
そこで、内閣府の統計である『国民経済計算年次推計』から「制度部門別の純貸出(+)/純借入(-)」のデータをつかって、冒頭のグラフを作成してみました。
お分かりでしょうか。
ご覧のとおり、ネットの資金需要(対GDP比)をみますと、小泉政権期と安倍政権期に大きくプラス化しています。
ネットの資金需要のプラス化とは、すなわち貨幣の消滅(デフレ化)を意味しています。
この時期、企業は融資の返済に走り、その一方で小泉内閣や安倍内閣の財政赤字が不十分だったがために、経済に充分な貨幣が供給されるどころか、むしろ貨幣を消滅させていたわけです。
ちなみに、貨幣は借金が返済されることにより消滅します。
企業が銀行に借金を返済することも貨幣の消滅ですし、政府や地方自治体が財政赤字を縮小(もしくは財政黒字を拡大)することもまた貨幣の消滅になります。
デフレという企業の資金需要が高まらない状況下にあったにもかかわらず、橋本内閣以降の歴代内閣は財政を引き締め貨幣を民間経済から吸い上げてきたわけですから、日本経済が成長しなかったのも当然です。
そのなかでも最も酷かったのが、小泉内閣と安倍内閣だったことになります。
そもそも、企業が内部留保を貯め込むほどに資金余剰状態が続いていること自体、資本主義として異常なのでございます。
とはいえ、デフレが常態化し、需要拡大が見込めない以上、企業に対して「もっとカネを借りろ」と言っても無理な話です。
だからこそ、政府が財政赤字を充分に拡大しなければならないわけです。
少なくとも、企業が安定的な資金不足状況になるまで、すなわち政府は充分な財政赤字を確保しなければならない。
つまり、上のグラフでいうと、青色の棒グラフ(非金融法人)がマイナスとなり、それが常態化するまで、政府は財政赤字を拡大しなければならないのでございます。