令和9年度の介護・障害福祉の報酬改定と法改正にむけ、はやくもマイナス改定の議論がはじまっています。
とにもかくにも政府、すなわち財務省は、国家予算の約4割ちかくを占める社会保障費を削減したくて仕方がない。
マイナス改定の議論は、例によって歳出カット(緊縮財政)の追求に執念を燃やす「経済財政諮問会議」の場で行われています。
経済財政諮問会議とは内閣府設置法に基づいて設置されている総理を議長とする会議機関で、毎年6月に「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)という、企業でいえば「中期経営計画」のようなものを策定しています。
因みに会議のメンバーは、以下のとおりです。
岸田文雄(内閣総理大臣)
林 芳正(内閣官房長官)
新藤義孝(内閣府特命担当大臣兼経済再生担当大臣)
松本剛明(総務大臣)
鈴木俊一(財務大臣)
齋藤 健(経済産業大臣)
植田和男(日本銀行総裁)
十倉雅和(住友化学株式会社 代表取締役会長)
中空麻奈(BNPパリバ証券株式会社 グローバルマーケット統括本部副会長)
新浪剛史(サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長)
柳川範之(東京大学大学院経済学研究科教授)
5月23日に開催された同会議で、議長を務める岸田総理自らが「医療や介護などの社会保障費の適正化を進めていくための改革が大前提である」と示しました。
ここでいう「適正化」とは、歳出の削減を意味しています。
削減とは言いづらいがゆえに「社会保障費の適正化」と言って誤魔化しているわけです。
この言葉をもって、岸田内閣は令和9年度の報酬改定での「マイナス改定」の方向性を明確に示したことになります。
因みに、9月の自民党総裁選挙で仮に岸田内閣が退陣しても、今月に閣議決定される「骨太の方針2024」は生き続けます。
現在の経済財政諮問会議での議論の中心は、もっぱら医療や介護が対象となっていますが、障害福祉も基本的には医療や介護の流れに準じていくことは言うまでもありません。
ご承知のとおり、今年(令和6年度)の報酬改定では、とりわけ障害福祉サービスの分野は、医療や介護の分野に比べると充分な議論が行われないままに、例えば放課後デイサービスや生活介護の短時間のマイナスのほか、就労継続支援A型は加算対象は制約され、障害のグループホームも実質的な人員配置要件の見直しという点で実質的にマイナス改定とされました。
介護報酬についは既に平成27年度改定の時点で大幅にマイナス改定されているのですが、それを令和9年度改定で更にマイナスにしようと目論んでいるわけです。
議論の中身をみますと、経済財政諮問会議の財界メンバーらは、介護分野についてロボットやAI、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入を進め、さらには経営の大規模化や介護サービスの東南アジアへの輸出などを提言しています。
たしか政府は、農業の分野でも同じことを言っていましたね。
農業経営の大規模化、輸出の振興、AIを活用したスマート農業の実現とか。
まるで、なんとかの一つ覚えです。
要するに彼ら彼女らは、農業であれ介護であれ、「経営規模の拡大とスマート化によって経営効率を高め、やがては輸出で外貨を獲得できるぐらいにすれば、政府は財政支出を削減できるではないか…」と言いたいらしい。
なお、5月23日の経済財政諮問会議の資料では、4月16日に開催された財政制度等諮問会議(財務相の諮問機関)において既に示されている次の内容が盛り込まれています。
【介護】
〇 ICT活用による人員配置の効率化や経営の協働化・大規模化の推進により生産性を向上させるべき。また、高齢者向け 住まいにおける利用者の囲い込み・過剰サービスの是正や保険外サービスの柔軟な運用等により、効率的な給付を図る必要。
〇 あわせて、利用者負担(2割負担)の対象者の範囲拡大、ケアマネジメントに対する利用者負担の導入、軽度者に対する介護サービスの地域支援事業への移行など、給付と負担の見直しを早急に進めるべき。
すなわち財務省は、例えば集合住宅に対しての利用者の囲い込みや過剰サービスを是正し、保険外サービスを利用するなどして、「とにかくコストカットしろよ!」と言っています。
また、ご覧のとおり、利用者負担の拡大や給付の見直しも盛り込まれていますし、ケアマネージャーの利用者負担の導入、あまつさえ「軽度者改革」と称して要介護1・2を介護保険から外そうとまでしています。
そこまでするのか財務省。
社会保障予算を減らされたくない厚生労働省としては必死に抵抗するでしょうが、残念ながら政治的パワーは財務省のほうが強い。
繰り返しますが、これらの愚かなる提言は悉く「貨幣観の間違え」からきています。
このままでは、介護や障害福祉に関わる事業者たちの事業継続が益々危うくなっていきます。
やがては「おカネはあるのにサービスがない…」という本末転倒の事態になることでしょう。