帝国の墓場

帝国の墓場

かつては「世界の警察官」と呼ばれ、向かうところ敵なしの覇権国だった米国ですが、今や経済面においても外交面においても、かつてほどの力は失われつつあります。

とりわけ、2003年のイラク戦争は米国の軍事力を著しく疲弊させ、2008年のリーマン・ショックは新自由主義経済がもたらす様々な社会矛盾を露呈させました。

そして、2021年のアフガニスタンからの撤退は惨劇そのもので、覇権国・米国に対する世界からの信頼を一気に喪失させました。

アフガニスタン撤退直後、米国経済は厳しいインフレに見舞われ、大手銀行が破綻するなど金融面でも不安定化し、メキシコの壁建設中止に伴い年200万人ほどの不法移民が流入していることもあって治安はさらに悪化しました。

しかしながら、同時にバイデン政権は、それまでの新自由主義的な経済政策や対中戦略を大幅に見直すなどして、経済面と軍事面において、その巻き返しを図っています。

たしかに米国は、追いつかれそうになると、再び引き離しにかかるという「しぶとさ」を持っています。

軍拡競争を仕掛け、ソ連経済を潰したときのように。

ゆえに、このまま米国が覇権国としての力を失い続けて退潮していくのかどうか、今はまだわかりません。

ただ、歴史のパターンに従えば、アフガニスタンに手をつけた帝国はみな衰退していますけど…

ご承知のとおり、アフガニスタンに攻め入った大国は必ず力を失っていくという歴史のパターンがあります。

古くは、アレクサンドロス大王、チンギス・ハーン。

近現代では、大英帝国、ソ連。

これらの国々は、ユーラシア大陸の中央に位置する地政学的要衝、かつ資源豊富なアフガニスタンを欲しがりましたが、いずれの大国も勝利を収めることができませんでした。

アフガニスタンに手を出した国は、ほぼ例外なく衰退へと突き進んだのでございます。

数々の大帝国を葬り去ってきた歴史から、人々はこの国を「帝国の墓場」と呼びます。

それにつけても、なぜアフガニスタンに手を出した大国は衰退の憂き目を見るのでしょうか。

少なくとも、どうして大国が小国に戦闘で勝利することができないのか。

理由の一つは、容易に想像がつきます。

アフガニスタンは国土のほとんどが山岳地帯(国土の4分の3)であり、終わりなきゲリラ戦に長けたアフガニスタンの武装勢力がその地形や気候を最大限に活用するからだと思われます。

もう一つの理由は、アフガニスタンに攻めこむと「敵が増える…」ことにあるらしい。

なるほど地図を俯瞰しますと、アフガニスタンの周りには、インド(パキスタン)、イラン、中国など、そこそこの大国が直接隣り合っており、イスラム圏やロシアとも近い。

加えて、アフガニスタンが地政学的要衝であること、資源にも恵まれていることから、近隣諸国の複雑な思惑が絡み合っています。

ゆえに、いずれの国も「アフガニスタンだけは、他の国に取られたくない」という思いで共通しています。

だからこそ、どこかの国がアフガニスタンに攻め入ると、様々な国が敵にまわり、それらの国々がアフガニスタンに惜しみなくカネや武器を援助することになります。

このような地で長期戦に引きずり込まれた国は、大国といえども国力が疲弊してしまうのでしょう。

バイデン政権が、国際的信用を失墜してでもアフガ二スタンから米軍を撤退させたのは、「これ以上、国力を疲弊させてはならない」と判断したからだと思います。