侵略的外来種

侵略的外来種

国連総会の決議を元に設立されたIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム、以下「イプベス」)という政府間組織があるのをご存知でしょうか。

世界140か国以上が加盟し、生物多様性に関する科学的な情報をとりまとめるなど、その研究成果を基に政策提言を行っています。

このたび、そのイプベスから、ヒアリなどの外来種による被害が世界で年間60兆円を超えているとの報告書が発表されました。

報告書によれば、それまで存在していなかった地域に侵入した外来種は、人間の活動に伴い、今や37,000種以上にものぼり、毎年200種も増えているとのことです。

なお、その被害額は10年ごとに4倍というペースで急増していて、2019年には年間4,230億ドル(日本円で約60兆円)以上らしい。

近年、外来種が急増しているのは、何より新自由主義に基づく経済活動のグローバル化が大きく影響しています。

ヒトやモノの国境や海を越えた行き来が、急増してきたわけですから当然です。

例えば、ヒアリはコンテナ貨物に紛れて我が国に入ってきますし、ワカメは貨物船が荷を下ろした後、船を安定させるために積む海水(バラスト水)に入り込んで運ばれてきたとされています。

言うまでもなく、外来種は定着した国に元々いた生き物を駆逐したり絶滅させたり、生態系を破壊します。

それだけではありません。

熱帯性の蚊が人間界に感染症を広げることもありますし、ヒアリも人を刺すことで健康被害をもたらします。

外来種の中でも、地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かす恐れのあるものを侵略的外来種といいますが、ヒアリも侵略的外来種の一つとされています。

一方、我が国では、ことし『外来生物法』が改正され、その対策強化を図っています。

まず、水際対策としては、ヒアリの仲間を「要緊急対処特定外来生物」に指定し、ヒアリがいる疑いのある貨物については港などで税関を通過した後であっても、トラックや倉庫などへの国による立ち入り検査を可能にしました。

そのほか、疑わしいアリが見つかった場合、ヒアリかどうか専門家が調べる間、貨物の移動を強制的に止められるようにもしています。

因みに、私の世代にとっては子供のころから馴染みの深いアメリカザリガニやアカミミガメ(ミドリガメ)は日本に定着して久しい外来種ですが、残念ながら在来種を駆逐するなど生態系に打撃を与えています。

これらは既に全国で数百万匹も飼育されているため、飼育自体は禁止されませんが、ことし6月からは販売、あるいは野外に放すことなどが禁止されるようになりました。

イプベスは「まずは侵入の予防、そして侵入した場合には早期の対策が特に重要だ」と、至極当然のことを提言しています。

去年、世界各国が合意した生物多様性の新たな国際目標には「2030年までに侵略的外来種の定着を半減させる」ことが掲げられていますが、果たしてどうか。

さて、生物界のみならず、グローバリズムが進みすぎた世界では、異質性を前提とするインディビジュアリティ(individuality=個性)という言葉が死語になりつつあります。

これに代えて、同質化、均一化を指向するダイバーシティ(diversity)という言葉が、我が国でも「多様性」という訳語として独り歩きし、まさに「侵略的外来種」として我が国の文化や伝統を破壊し続けています。

政治における侵略的外来種から、我が国固有の文化や伝統を守るのも保守主義者の役割です。