中国が急速に核戦力を増強しようとしています。
米国の国防総省が昨年11月に公表した年次報告書によると、中国が保有する核弾頭数は推定で既に400発を超え、これが2035年にはおよそ1500発にまで急増する可能性が高いという見通しが示されています。
10年あまりで3倍以上に急増するというのは驚くべきスピードで、過去の報告書と比べても、その増加ペースは格段に速まっています。
一般的に「核弾頭の保有数…」と言った場合、配備されているもの以外に、貯蔵されているものや解体を待つものなども含まれます。
これらを合わせますと、例えば米国の保有数は5400発あまり、ロシアのそれは900発あまりとなっており、この2か国が圧倒しています。
それらのうち、配備については、米ロ両国は「新START」という核軍縮条約に基づいて、それぞれ1550発以下にすることを定めています。
よって、中国が保有することになるとみられる核弾頭数は、この米ロの配備数にほぼ匹敵するレベルとなって、核による「力の均衡」が大きく崩れるおそれがあります。
巷には「それだけの核弾頭を増やすことが能力的に可能なのか…」という疑念の声もありますが、米国の国防総省の報告書によると、現在、沿海部の福建省で建設が進められている2基の高速増殖炉がそれを可能にするらしい。
1基目は今年、2基目は2026年にも稼働を始めるようですが、これによって近い将来、中国は核兵器に使用可能な「プルトニウム」を大量に生産できる態勢を得るわけです。
なるほど、そのプルトニウムの保有量から、国防総省は製造される核兵器の数を推測しているわけです。
ご承知のとおり、中国は世界最大の温室効果ガスの排出国です。
よって、温室効果ガスの削減を進めながら電力需要をまかなうために原子力発電に力を入れています。
なので、福建省の高速増殖炉も民生用の発電施設とされてきました。
むろん米国はそうは思っておらず、軍事転用されるのは明らかです。
中国は、他の核保有国及び日本やドイツなどとともに9か国が参加するプルトニウムの国際的な管理指針に基づき、毎年、保有する量をIAEA(国際原子力機関)に申告していたのですが、2017年を最後にこの申告を止めています。
さて、核兵器については、NPT(核拡散防止条約)の持つ不平等性を問題視し、とりわけ日本では核兵器廃絶論者が多い。
しかしながら、私はそれを支持しません。
私は核の「平和への効用」を認める者です。
二つの世界大戦後、米ソ両国が圧倒的な核弾頭数を保有して以来、相互自殺(心中)兵器たる核が国家間決戦というものを封じ込め、これにより先進国同士の血みどろの「殺し合い」は無くなりました。
現に今なお、核保有国同士の国家間決戦は「核兵器」がストッパー機能を果たし発動不可となっており、非核国同士の国家間決戦も核保有国たる軍事大国により制御され、局地戦、代理戦、制限戦にとどめています。
もっか進行中のウクライナ戦争についても、双方に多くの民間人犠牲者が出ていることは誠にもって気の毒なことですが、不幸中の幸にして、核保有国同士の国家間決戦、あるいは世界大戦に至ることなく、米ロ決戦の代理戦、国境争奪戦に限定されています。
もしも核廃絶が実現した場合には、残念ながら人類は再び国家間決戦を始め、在来兵器による果てしなき「殺し合い」が復活することになるでしょう。
そこで問題を深刻化させているのは、これ以上の核の拡散です。
前述のように、中国が進めている大幅な核戦力の増強は、核による世界の秩序バランス(核によるストッパー機能)を壊し、人類にとって大いなる脅威となります。