NATO事務総長、訪日の背景

NATO事務総長、訪日の背景

1月30日から2月1日までの三日間、NATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長が来日しました。

1月31日の午前中には航空自衛隊入間基地を視察され、同日夕方には岸田首相との会談も行われました。

因みに、ストルテンベルグ氏は2017年10月にも外務省賓客として訪日していますが、2012年11月にはノルウェーの首相としても訪日するなど、過去数回の訪日経験があります。

さて、NATOといえば、文字どおり北大西洋をはさむ米欧諸国による軍事同盟であるはずなのに、なぜその事務総長が日本をはじめアジア各国を歴訪されているのでしょうか。

事務総長とはいえ、事実上のNATOトップ(平たく言えばNATOの首相)です。

外務省の公式発表によれば、事務総長の今回の訪日は「実務訪問賓客」(国賓及び公賓に準ずる者)としてお迎えしているとのことです。

例えば米国の大統領が来日した場合、当然これは「国賓」になります。

ところが「国賓」扱いとなると、例えば天皇陛下とのご面会や、歓迎祝賀会などの公式行事を催す必要がありますが、短期間の滞在で実務的な交渉だけをしなければならないときには国賓でなく、それに準ずる実務訪問賓客という形をとるのが通例です。

意外と知られていませんが、わが日本国はNATOのグローバル・パートナーです。

ストルテンベルグ事務総長は、航空自衛隊の入間基地を視察された際の隊員への訓示で「ウクライナに対する支援を感謝している」と強調されましたが、もちろんただ単にお礼だけを言いに来たわけではないでしょう。

ご承知のとおり、いまNATOはウクライナに対して兵器や弾薬の支援を続けていますが、どうやらその数が足りておらず、その量を増やすことに苦心しているようです。

だから日本に来る前にも韓国に寄り、「韓国製戦車88(パルパル)を供与してくれないか…」と頼みこんだものの断られてしまった、との情報もあります。

ウクライナに対する「戦車」の供与問題が一段落したところですが、今は戦闘機や対空ミサイル、それらに絡む電子機器や整備部品や弾薬の供給が熱望されているらしい。

ゆえに31日の岸田首相との会談では、「日本にもそれらを提供してもらえないか…」、あるいは「それが駄目ならそれらを買うカネを出してくれないか…」という要望があったことと推察します。

また、ウクライナ戦争は長引くことが予想されていますが、加えて今後ますます、世界はロシア・中国・北朝鮮等の専制国家と、自由主義勢力を自認する欧米等が真っ向から対立するという構図が浮き彫りになっていきそうです。

そうなった場合、欧州とアジア諸国との連携が重要となるので、そのアジアで欧米と協力できる「力ある国々」と早めに連携をとっておきたい、という目的もあろうかと思われます。

むろん、ストルテンベルグ事務総長は英米ほか欧州の国々とは常に密接な連絡をとっているのだと思われますが、今回は英米だけではなく直接、日本や韓国等と連携をとりたかったのでしょう。

とりわけ西太平洋や南太平洋には、イギリスやフランスなどNATOの主要加盟国の属領地が点在していますので、それらの国にとっては、東アジアにおいて海軍力を急速に強化している中国の存在は大いに気がかりなのだと思います。