我が国は、ほぼ全てのエネルギーを海外からの輸入に頼っています。
特に石油資源は顕著で、遠く海をタンカーで運搬し、我が国のエネルギー需要を支えています。
石油の一滴は血の一滴…
これは、第一次世界大戦のころ、フランスのクレマンソー首相が放った有意な言葉です。
即ち石油はほぼ全てのエネルギー源であり、あの頃から戦略物資だったことを物語っています。
石油を含むエネルギーは、国家同士の軋轢を生むほどに世界経済の行方をも左右するもので、「持つもの(Haves)」と「持たざるもの(Have nots)」の対立は拡大していきます。
第二次世界大戦はまさに、「Haves」と「Have nots」の戦いでした。
我が国は未だに「Have nots」であり、石油の安定確保は非常に重要なエネルギー安全保障です。
ご承知のとおり、世界情勢はロシアによるウクライナ侵攻など不安定さを増しており、エネルギー資源の供給不安が強まっています。
そうしたなか「日本がアラブの石油特権を獲得した…」というニュースが注目を集めています。
日本は、消費するほぼ全ての石油を海外からの輸入に頼っていますが、なかでもサウジアラビアやUAEなど、アラブ地域からの輸入量が圧倒的に多く、日本の石油の三分の一をアラブ産が占めています。
アラブなどの中東地域が世界有数の石油産出量を誇っているのは周知のとおりですが、この地域で石油がたくさん産出されるのは「太古の昔、あのあたりにテチス海という広くて浅い海があったからだ」と言われています。
プランクトンの死骸がたまるのにちょうどよく、石油ができやすい条件がうまく揃っていたのでしょう。
例えば、サウジアラビアにあるガワール油田は、世界最大の埋蔵量を誇る油田で、南北280キロメートル弱、東西50キロメートル弱という広大な面積の油田です。
我々が日常的に車に給油するガソリンも、ほぼ中東地域から運ばれてきたものと思っていい。
つまり日本の石油輸入には中東情勢が大きな影響力をもっていることは言うまでもありません。
1970年代に起こった二度の「石油ショック」はどちらも中東情勢に起因したもので、日本にとって中東諸国と良い関係を築くことは未だ国家にとっての重要事項です。
むろん、日本はサウジアラビアやUAEとの結びつきを強めており、単に石油を輸入するだけでなく、教育、医療、先端技術など様々な分野で協力を行っています。
そうしたなか今回、UAEのアブダビ国営石油と国際石油開発帝石が契約したというメディア発表があり、アブダビの油田権益の更新が決定しました。
契約した油田はアブダビ沖にあるのですが、海底油田までの水深が浅いため採掘コストが安く、1バレルあたり数ドルに抑えられるかなり有望な鉱区らしい。
そのため、当該鉱区は日本以外にも中国やインドが新規の権益確保にむけて働きかけを強めているようです。
国際社会から「経済力が低下している日本は買い負けするのでは…」などと言われていましたが、なんとか契約を取り付けられて良かったです。
日本が契約を取り付けられたのは、おそらくはUAEの建国前後に国造りに大きな貢献をしたからではないでしょうか。
UAEが誕生したのは私が生まれた1971年ですが、日本は連邦結成の翌日にUAEを承認しており、UAEを承認した最初の5カ国の一つです。
そこから日本は一貫して原油をUAEから輸入するなど、揺るぎない互恵関係を築いて今日に至っています。
王室との交流も盛んで、故ザーイド前大統領並びにムハンマド皇太子が来日したり、1995年には上皇陛下ご夫妻がUAEを訪問されたりもしています。
とはいえ、新興国は人口増加に伴いエネルギーの消費量が増えており、それを賄うために必死です。
エネルギー資源獲得にかける意志は強く、その資金面においても日本にとって強力なライバルとなっていますので、今後はこれまで以上に手強いライバルとなっていきそうです。
エネルギー資源を輸入に頼らなければならない我が国の宿命です。