厚生労働省が発表した10月の実質賃金はマイナス2.6%(前年同月比)となり、7カ月連続のマイナスになりました。
コストプッシュ・インフレにより物価が上昇しているにもかかわらず、一向に賃金が上がらない。
しかもマイナス幅2.6%は7年4カ月ぶりの大きな落ち込みで、給料で買えるものがどんどん減り暮らしは厳しくなる一方です。
いつも言うように、実質賃金は、①生産性、②労働分配率で決定します。
例えば、100円の商品(付加価値)を100個生産して販売すると、10,000円の所得を得ることになります。
この状況で物価が10%上昇すると、商品110円、生産量100個で11,000円の所得となります。
このとき、商品価格と所得が共に10%上昇しているために実質賃金は変わりません。
一方、価格100円の商品を110個生産して販売できれば、所得は11,000円ですが、今度は実質賃金が10%上昇しています。
即ち、生産量の増減が実質賃金を決めています。
ただし、どんなに生産量が増えたとしても、その企業が従業員への所得分配を低くしてしまえば賃金(給料)は上がりません。
ゆえに、実質賃金は①生産性、②労働分配率で決定されるわけです。
さて、生産性を引き上げるためには「資本」を投じ、労働集約型を「資本集約型」とし、一人当たりの生産「量」を増やさなければなりません。
因みに、ここでいう「資本」とはおカネのことではなく、工場や機械などの「生産資産」のことです。
企業が生産資産(資本)を投じることで生産性を向上(経済を成長)させるからこそ、資本主義といいます。
残念ながらわが国は1997年以降、実質賃金が長期的に下落し続けています。
その根本原因は、デフレ経済(需要不足)が続いているからです。
長らくデフレという需要不足経済が続いてきたために、日本の企業投資が減ってしまい、生産者が次第に「労働集約型」で働かざるを得なくなってしまったのです。
であるからこそ、企業が資本を投じることができるようにデフレを払拭することが日本政府の命題であったわけです。
そんななかで、今度はコストプッシュ・インフレが襲いかかってしまい、現在の日本経済はデフレとコストプッシュ・インフレが併存している格好です。
デフレ対策は需要の拡大、一方のコストプッシュ・インフレ対策は供給能力の引き上げですので、一見お互いに矛盾した対策に思えますが、供給能力の引き上げには各種の投資(インフラ投資、設備投資、技術開発投資)が必要ですので、結局は政府財政の拡大が求められることになります。
一方、各国の生産性と賃金との相関関係を調べてみますと(相関関係は数字が1に近づくほど関係性が深く、ゼロなら無関係)、米国は0.674、日本は米国よりも一桁以上小さい0.049となっており、ほぼゼロです。
OECD加盟国35か国でランキングしてみますと日本の0.049は第26位となりますので、生産性と賃金の関連性が各国と比べて低くなっていることがわかります。
おそらくではありますが、そこには行き過ぎた「株主資本主義」の後遺症があるのだと思います。
岸田首相が「新しい資本主義」と言うのであれば、労働分配率の引き上げについても諸政策を講じる必要があります。