防衛費、対GDP比2%の意味

防衛費、対GDP比2%の意味

岸田内閣は、この年末までにいわゆる防衛3文書を改定します。

防衛3文書とは…

①国家安全保障戦略

②防衛計画の大綱

③中期防衛力整備計画(以下、中期防)

…の三つの公文書です。

①は外交・防衛政策を中心にした国家安全保障の基本方針であり、②は防衛力の水準を規定するもの、③は今後5年間の防衛費の総額(総枠)や主要装備の数量を明示するものです。

とりわけ③の中期防は、基本的に「財政制約ありき…」を前提とするもので、いわばPB維持のために設けられている計画といっていい。

よって「中期防など、本来は不要…」と私は思っています。

政治家、官僚、メディアの多くが原則として「財政制約ありき…」の人たちなものだから、防衛力整備の議論と報道が実に歪んでいます。

特に、次の2つの点で歪んでいます。

1.防衛費を引き上げる理由

2.財源問題

まず、政府が防衛費を対GDP比で2%水準にまで引き上げようとしている理由について、多くのメディアが「台湾有事が迫っているから…」という論調です。

昨日も読売系のワイドショー番組で解説者が「防衛費を増やさないと、台湾有事に対応できない…」「防衛費を増やすなら増税が必要では…」と発言していました。

財源については、政府の『国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議』も例によって「増税ありき」を前提にした議論を展開しています。

メディアも財源を増税に求めており、国民を含め未だ多くの人たちが「税収=財源」と誤解しています。

金貨や銀貨を貨幣としていた中世ならいざしらず、現代は不換紙幣や預金通貨が主流通貨となっています。

時代錯誤もいいかげんにしてほしい。

さて、防衛費を対GDP比2%にする本来の目的ですが、防衛省でさえ誤解しているように思えます。

防衛省は引き上げ理由を「安全保障環境の激変(戦後最大級の難局)に直面しているから…」としています。

私は15年以上前から、我が国の防衛費を対GDP比で2〜3%にまで引き上げるべきであることを主張してきました。

それは、基盤的防衛力の整備として対GDP比2〜3%を確保すべきだ、という意味であって、決して「臨戦態勢に入れ…」という意味ではありませんでした。

実は防衛省は10年以上も前から「基盤的防衛力」構想を捨て、「脅威対抗論」による防衛力整備に乗り換えています。

当時は北朝鮮の小さな懸念をのぞき、これといって大きな脅威予想がなかったがために、対GDP比1%程度の予算でも何とか対応できると考えていたのでしょう。

しかし、最近は北朝鮮のみならず、中国やロシアの脅威もより具体的となり、あまつさえ米軍の軍事力が相対的に衰退しているので、日本独力で中国・ロシア・北朝鮮の日本侵攻を阻止・抑止しなければならないという意識が強くなってきているようです。

とはいえ、中国・ロシア・北朝鮮が本気で日本に侵攻したとき、例え我が国が対GDP比2%の防衛予算を確保していたとしても、これらの国々との国家間決戦を独自に戦うことは不可能です。

おそらくは、防衛費を対GDP比で30%に増やしても不可能でしょう。

そもそも中国もロシアも、日本と国家間決戦をやり、日本を壊滅占領しようとする意図などはなく、また米軍基地がある限り「そんなことは不可能だろう…」と考えているはずです。

中国やロシアは米・中・ロの間にある日本を弱体化したいと考えているのは間違いないことだと思いますが、それは彼らが得意とする三戦(心理戦・宣伝戦・法律戦)を駆使すれば達成できると考えているのでしょう。

むろん、日中間にある無人島の尖閣諸島、有人島の与那国島、日・ロ間にある北方4島、利尻・礼文などの有人島問題、更には日・韓(北)の間に竹島問題が国境問題として残っていますが、これらは国境紛争問題として互いに引くに引けず、いったん紛争が起れば長期化し、泥沼状態に陥ることから得策ではないので、とにもかくにも紛争に至らないように我が国の予防・対処能力を高めるしかありません。

尖閣の場合は我が国が施政権を有していることは明白ですので、今後ともその証拠増大を図る必要があり、それはある程度可能だと思われます。

ただし、「領域警備法」の整備は早急に必要です。

そこで台湾有事への対応ですが、もしも中国が軍事的に台湾を侵攻した場合、米国は中国を当該地域の秩序破壊者として認定し、有志連合軍のリーダーとなって集団安保による集団的措置を発動するはずです。(集団的自衛権ではない)

よって我が国は、集団的自衛権の発動ではなく、集団安保の集団的措置に参加する責務を遂行することになろうかと思います。

ここが重要なポイントですが、我が国が防衛費を対GDP比で2%に引き上げるのは、けっして台湾有事のためではなく、独立国家として集団安保の責務を果たすためです。

「同じことじゃん…」と思われるかもしれませんが、決定的に違います。

個々の危機(脅威)に応じて整備される防衛力というのは「脅威対抗防衛力」であって「基盤的防衛力」ではありません。

対GDP比2%で整備されるべき防衛力は、基盤的防衛力です。

因みに今回、ようやく政府が重い腰をあげて対GDP比2%への増額に動き出したのは、おそらく米国からの要請があったからだと思います。

かねてより(トランプ前大統領以前から)米国は日本に対して「防衛費が対GDP比1%の日本は集団安保の責務を果たしてない」と指摘していましたので…

そして現在、世界のほとんどの国々が国家間決戦をするつもりなどなく、対GDP比2〜3%の予算で基盤的防衛力の体制をとっていることを知るべきです。