きのうの外国為替市場では円相場が32年ぶりに1ドル=150円を超え下落しました。
これを受け日本経済新聞は「市場が日本経済の『構造的な弱さ』をついている」と記事にしています。
あらぬ財政破綻論を煽り吹聴し、これまで散々に日本経済を弱くしてきたくせによく言いますね。
この新聞社に「だったら日本経済を強くする処方箋を示せ」と迫っても、どうせ「まずは政府の財政再建だ…」と言うに違いない。
日本経済は構造的にデフレ状態が続いているのは事実ですが、それが今回の円安要因だとは言い切れない。
為替市場であれ、株式市場であれ、相場変動の大部分は市場参加者たちの「思惑」により影響されるからです。
例えば、2012年12月に第2次安倍政権が発足したのち安倍総理は直ぐにアベノミクス(大規模な量的金融緩和と積極財政)を表明しましたが、ただ表明しただけなのに円安が進みはじめました。
実際に量的金融緩和を行わずとも、あるいは実際に財政支出を拡大せずとも、市場参加者たちが思惑で「こんごは円安の流れだな…」と判断したがゆえに円が売られたに過ぎない。
いわゆる「自己実現的予言」というやつですね。
少なくとも金利水準と為替相場が相関関係にあるわけではありません。
なので、今回の急激な円安をもって日銀に利上げを要求するのは筋違いです。
日本経済新聞は、日本経済を本気で強くしたいのであれば、まずは日本では起こり得ぬ「財政破綻論」を撤回してほしい。
きのう英国のトラス首相が「保守党から選出された任務を果たすことができない」と辞任を表明しました。
報道によれば、首相就任後に打ち出した「大規模減税策」が金融市場を混乱させたことが辞任理由とされています。
詳しいことについては私も調べていないのでわかりませんが、トラス首相が減税しようとした対象はどうだったのでしょうか。
英国もコストプッシュ・インフレに苦しんでいるのでしょうから、もしも消費拡大に直結するような減税であれば、むろんそれは失策と言えるでしょうが、供給能力を引き上げるための投資減税などであったなら間違ってはいなかったと思います。
果たして、どうだったのでしょうか。
いずれにしても、この種の報道が日本国内で広まると、ますますもって「財政規律」を求める政治が続きそうで困ります。
現在の我が国の政治に求められているのは、供給制約を解消するための財政支出拡大と大規模な産業政策です。
今の日本に大規模な財政支出と産業政策が求められている最大の理由は、やはり中国が我が国に仕掛けているハイブリッド戦(超限戦)にあります。
超限戦とは、人民解放軍の元軍人の喬良と王湘穂が1999年に提唱した戦略であり、主体、領域、手段、段階などなど、あらゆる区分を超えて組み合わされ遂行される戦争のことです。
要するに、国家組織、非国家組織、軍事、政治、外交、経済、文化、宗教、心理戦、武力攻撃、テロ、経済援助、貿易制裁、外交斡旋、文化の浸透などなど、様々な区分を組み合わせて仕掛けてくる侵略戦争です。
これに対し、我が国の体制は極めて脆弱です。
まず私たち日本国民は、他国を侵略する手段は軍事(武力攻撃)だけではないことを理解しなければならないと思います。
また歴史的にみても、もともと中国はハイブリッド戦を得意とする国で、例えば毛沢東の戦略思想は「平時」と「戦時」の境界を曖昧にすることにありました。
平時と戦時の境界を意図的に曖昧にすることこそ、ハイブリッド戦の真骨頂です。
現在の中国共産党は、米国やその同盟諸国との闘争を自国の生存に関わるものとしてとらえ、極めて長期にわたってハイブリッド戦を継続しなければならないと考えているようです。
ところが我が国といえば、平時と戦時を峻別し、武力による行使のみを「戦争」とみなし、戦争というものは可能なかぎり短く終わらせたいと考えています。
彼の国は1000年単位の長期計画でハイブリッド戦を遂行しています。
残念ながら、我が国の政治家の多くが中国のハイブリッド戦に対抗するという明確な戦略をもっていないのが実状かと思われます。
因みに、米国のバイデン政権が掲げてきた経済政策の本質はまさに産業政策であり、中国のハイブリッド戦に対抗するための一側面です。
意外に思われるかもしれませんが、戦後の我が国においては、まともな産業政策などなかったのが現実です。
あったとしても、米国が行ってきた産業政策に比べたら、まったく比較になりません。