大手企業が次々に新型コロナワクチンの「職場接種」を表明しています。
6月3日、菅総理は経済3団体を官邸に呼び「6月中旬以降、産業医の方々を中心に職場接種をはじめてほしい」と直々に要望していますが、例えばサントリーホールディングスは国内の営業拠点や工場などを接種会場にしてグループ従業員約1万9,000人と家族を対象に6月21日から職場接種をはじめるらしい。
また、生活用品大手のアイリスオーヤマも国内12の拠点を会場にしてグループの従業員約7,000人と家族を対象とする職場接種をやはり6月21日から行うとのことです。
ほかにもパナソニック、JR東日本、野村ホールディングス、JTBなどなど、名だたる大手企業が職場接種を行うとしています。
こうした大手企業による「接種会場」が増え、一人でも多くの人々がコロナワクチンを接種できるようになることは集団免疫を獲得するうえで実に喜ばしいことではありますが、問題は接種会場までどのようにワクチンが移送されるかです。
つまり、保存場所である基本型接種施設から大手企業が新たに設置する接種会場まで、ファイザー社が厳格に規定する温度帯での移送がちゃんとできるかどうかです。
ファイザー社は、スギヤマゲンの容器のように「冷蔵(2℃~8℃)容器での移送の場合は衝撃・振動を加えてはダメ!」と明確に規定します。
少し説明が必要になります。
ファイザー社製のワクチンは「mRNAワクチン」です。
抗原をつくるためのmRNAは非常にデリケートで壊れやすいために保護的脂質シェルの中に入れてあります。
ところが、この保護的脂質シェルもまた衝撃や振動に弱い。
この脂質シェルが破損すれば、もちろんmRNAも破損してしまうわけです。
だからこそ、脂質シェルそのものが衝撃や振動で破損しないようにマイナス15℃以下という完全に凍った状態を維持して移送されなければなりません。
ワクチンの取り扱いについて多くのメディアは、とりわけ時間管理の重要性を強調していますが、実はこの温度帯の維持もまた極めて重要な要素なのです。
マイナス15℃以上では、やがてワクチンがシャーベット化してシャカシャカ状態になってしまう可能性があるために、ファイザー社は「移送の際には必ずマイナス15℃以下という温度帯を維持してくれ」と言っているのでしょう。
くどいようですが、スギヤマゲンの容器のような2℃~8℃の冷蔵容器での移送については「その場合、衝撃・振動を加えては絶対にダメ」と明晰に否定しています。
にもかかわず現実には、多くの市町村においてこのスギヤマゲンの冷蔵(2℃~8℃)容器でのワクチン移送が行われ、ファイザー社も真っ青になるくらいに容赦のない衝撃・振動がワクチンに加えられています。
先日、あるテレビ番組を観ていたら、大阪のトーホー工業という会社が製造している発泡スチロール素材の容器が紹介されていました。
大阪府の堺市がここの容器を採用しているらしい。
その社長が「うちの容器は低温と耐衝撃を売りにしています」と嬉しそうに解説していましたが、そこでいう低温とは「0℃以下」とのことでした。
朝日新聞じゃないけれど、ちょっと待ってほしい…
ワクチンの製造元であるファイザー社は「0℃以下」ではなく、「マイナス15℃以下」で移送せよ、と言っています。
ファイザー社が規定する温度帯に「0℃以下」という温度帯は存在しません。
なお繰り返しますが「冷蔵(2℃~8℃)状態で運んでもいいけれど、その場合は衝撃・振動を加えては絶対にダメですよ」としています。
川崎市は昨年の9月26日、医師会との共同により全国の自治体に先駆けてファイザー社を招いた説明会を開催しました。
なのでだいぶ早い段階から、本市は冷凍(マイナス15℃以下)状態での移送を可能にするための容器(実際にはマイナス20℃以下)を独自に調達準備することができました。
ゆえに本市の場合、市内全ての接種会場へは、ファイザー社が規定する正しい温度帯(マイナス15℃以下)によってワクチンが移送されています。
その意味で、川崎市民は充分に安心していい。
千葉大学病院がファイザー社製ワクチンを2回接種した職員1,774人を対象に抗体の保有率を調べたところ、ほぼ全員の1,773人(99.9%)が充分な量の抗体を既に保有していることがわかったとのことです。
働き盛りの現役世代への接種で99.9%の抗体保有率が示されたのはいわば当たり前の話でもありますが、当該病院は基本型接種施設であることから、当然のことながらここで接種されたワクチンは全てファイザー社が規定する温度帯で管理されたものでしょう。
一方、多くの市町村がファイザー社の規定する温度帯を守らず、衝撃・振動ワクチンを接種しています。
以前にも申し上げましたが、早急に厚労省は接種業務主体である全ての自治体の移送状況の実態を把握し、正しい温度帯で移送するように指導・監督すべきです。
このまま何もしなれば、もしかすると抗体保有率の高い自治体とそうでない自治体とに二分化する可能性があります。
これからはじまる大手企業が設置する接種会場へも、ファイザー社が規定する正しい温度帯でワクチンが移送されることを切に願います。