電力難民

電力難民

電力の発送電を分離し小売りを自由化すれば、「必ずや国民に安価な電気を供給できる」という触れ込みではじまった電力の自由化政策。

電力の自由化政策を推し進めたのは、新自由主義に毒された政治家や官僚たちだが、それに「今だけ、カネだけ、自分だけ」の企業経営者(新電力)たちが群がり、多くの国民もそれを支持しました。

エネルギー自給率が高い国ならまだしも、その多くを海外に依存している資源小国でこんなことをすればどうなるか、という発想力は彼らたちには皆無でした。

電気料金は主として資源価格に依存するのであって、発送電分離だの新電力の小売り参入だので安価にしようとしたところに大きな間違いがあったのです。

現在、原発を止めている我が国の主力電源は火力発電であり、そのエネルギー源は天然ガスです。

上のグラフのとおり、天然ガスのスポット価格をみますと、2020年5月時点では100万BTUあたり2ドルを切っていましたが、なんと今は8ドルを超えています。

もともと電力の小売り自由化は、安い天然ガスで発電できることを大前提としています。

ご承知のとおり電力の小売りを行う「新電力」は自らは発電機能を持っていません。

ゆえに彼らは、大手電力会社や自家発電している独立発電事業者によって発電された電気を卸売市場(卸電力取引所)で安く仕入れて顧客に販売してきました。

ところが上のグラフのとおり、昨今の諸事情から天然ガスが急騰したため、新電力は卸電力取引所で電気を安く購入することができなくなってしまいました。

結局、経営が成り立たずギブアップして倒産閉業する新電力が跡を絶ちません。

倒産していない新電力はどうしているのかと言うと、むろん卸電力取引所から高くかった電気をそのまま顧客に高く売りつけています。

なかには7倍にまで電気料金を引き上げた新電力もあります。

あるいは、料金を引き上げられない新電力は、強制的に電気供給を止めているという。

新電力に電気供給を断たれてしまった顧客たちは、慌てて大手電力会社に契約の切り替えを申し込んでいますが、大手電力会社の経営もまた火の車なので「新規契約」の受付を停止しています。

発送電分離、小売自由化、FIT(再生エネルギー固定価格買取制度)、天然ガスの高騰、そして原発停止による火力発電依存によって、大手電力会社もまたコスト高に難儀していますので仕方のないことです。

新規契約を受け付けてもらえない顧客は、結局、新電力の高い電気を買わざるを得なくなっています。

これらの顧客は「電力難民」と呼ばれています。

そもそも電力の小売自由化もまたレントシーキングの一つでした。

新電力に卸電力市場で安い電気を仕入れさせることで新たなビジネスを可能にしたものの、新たな「需要」が増えていたわけでもなく、ただただ大手電力会社の既存シェアを新電力に奪わせていただけ。

明確な政治的意志をもって法律改正や制度変更を行うことで、新規参入事業者に既存の市場(シェア)を奪わせて儲けさせる、これをレントシーキングと言います。

既存の市場(シェア)を奪わせる、というのがレントシーキングのポイントです。

これでは経済をデフレ化させて当然です。

こんなもの資本主義でも何でもない。

資本主義とは、資本(生産資産や技術)を投じることで一人あたりの生産性を高めるものです。

一人あたりの生産性を高め経済(GDP)を成長させると新たな市場(シェア)が創出されていきます。

既存の市場(シェア)を新規参入で奪わせデフレ化させるのとは全くもって真逆の話なのでございます。