ウクライナ危機は依然として出口が見えない。
プーチン大統領は当初、侵攻後2〜3日で首都キエフを制圧できると踏んでいたようですが、あまりにも予想外な苦戦状態に頭を悩ませているにちがいない。
メディアはメディアで、その多くが「ウクライナへの全面武力侵攻」という恫喝策をプーチン大統領が実際に行動に移すなどと考えてもいなかった。
一方、直接的な武力介入は避けたものの、米国及びその同盟国によるロシアへの経済制裁だけは早かった。
ご承知のとおり、侵攻の後、早々にしてロシア経済は世界経済からデカップリング(切り離し)されました。
こうした民主国家コミュニティによる迅速かつ一致団結した対応をみて「今回のロシアによるウクライナ侵攻が崩壊しつつあった欧米秩序を再生するのでは…」という論調が見受けられます。
なるほど、たしかに歴史をみると、国際秩序は友好国への信頼ではなく、敵への恐怖が各時代の秩序基盤になっています。
即ち、連帯の形成よりもライバルを抑え込む協調行動から形成されるものです。
1648年のウェストファリア体制により確立された主権国家ルールは、それまでのカトリック協会や神聖ローマ帝国の権威を弱めるためであったし、1713年のユトレヒト条約で王族の婚姻や王朝の絆による領土拡張が否定されたのは、ルイ14世のフランスを封じ込めるためでした。
1815年のウィーン会議で欧州の大国間協調が形成されたのも、保守的な君主制国家がリベラルな革命政権の台頭を阻止するためでした。
1945年以降、西側陣営が安全保障コミュニティと自由貿易体制を構築したのまた、それは核武装した共産主義大国という脅威が存在したためです。
そうした「共通の脅威」が、新たなる秩序を形成するわけです。
とはいえ、今後はロシアのみならず中国などの大陸の権威主義国家群が国際社会の「新たなる脅威」として認識されることになるでしょうから、これまでのような欧米秩序とは異なり、欧米各国に加えアジアや中東をも含めた多様な同盟コミュニティが形成されていくにちがいない。
我が国が戦後ながらく続けてきた「対米追随」という外交ドクトリンが、今後どこまで通用するのかはわからない。
かつてのような覇権国としてのマッチョな米国はもう存在しないのだから。