リベラリズムという巧言

リベラリズムという巧言

ロシアのウクライナ侵攻から1ヶ月が過ぎました。

ロシアの当初の戦略目標は、首都キエフのほか主要都市を軍事的に制圧し親ロシア政権を樹立することにあったはずですが、いずれも実現できずにいます。

ゆえに一般市民を巻き込む戦闘が、このあとも数週間、もしかしたら数ヶ月続く可能性もあります。

それにしても、未だに制空権を掌握できていないあたり、ロシア軍の力はさほどのものでもないのかもしれません。

補給線も伸び、兵站が充分に行き渡っていないらしく、場当たり的な戦力投入さえも指摘されています。

ゼレンスキー大統領は米国などNATO諸国に飛行禁止区域の設置や戦闘機の供与を訴えていますが、バイデン大統領をはじめNATO諸国首脳は明確に拒絶しています。

「飛行禁止区域を設置しろ…」というのは、戦闘機をウクライナ領空に派遣しウクライナ側に立って参戦しろ、という意味です。

NATO側は部隊や戦闘機などの派遣は行わず、あくまでも武器や装備を支援するという姿勢をとっており、戦争に直接介入しないようにしています。

要するに、核をもったロシアと軍事的に衝突するわけにはいかないわけです。

そこが、核を持っていなかったがゆえに軍事侵攻されたイラクのフセインやリビアのカタフィと、核大国ロシアとの大きなちがいです。

川崎市よりも少ないGDP(経済力)で北朝鮮が核開発に走るのはそのためです。

さて、ウクライナ情勢は停戦にむけた交渉がどこまで進むかにかかっていますが、むろん交渉は難航を極めています。

ウクライナ側は即時停戦とロシア軍の撤退を主張し、ロシア側はウクライナの中立化と非軍事化を引き続き求めています。

中立化とはウクライナがNATOに加盟しないことを法的に保証すること、非軍事化とは軍は維持するもののウクライナがロシアの軍事的脅威となることを認めないことを意味します。

NATO加盟については、ウクライナは「必ずしもこだわらない…」と言いながらも、米・英・トルコなどによる集団安全保障の枠組みを要求しているようです。

それでは実施的にNATO加盟と何ら変わらないので、ロシア側としては認めるわけにはいかないでしょう。

とはいえ、初期の作戦が失敗しているプーチン大統領としては、作戦の進め方について新たな判断が迫られています。

なお、相対的な軍事力の差はロシアが圧倒している以上、あまりプーチン大統領を追い詰める過ぎると、事態打開のためにロシア軍が戦術核やBC兵器などを使用する可能性も完全に排除することはできません。

今回のロシアによるウクライナ侵攻は、米国が覇権国として主導してきたリベラルな国際秩序が崩壊したことを決定づけたと思います。

私たちは現実を直視しなければならない。

民主化を広めさえすれば必ず世界は平和になるという幻想が、結果として無辜の人々の命を奪っています。

例えば「イラクの民主化を…」と言って米国はイラク戦争を断行したものの、結果、中東は混乱しイスラム国の台頭を許しました。

あるいはCIAを使いウイグルのウーアルカイシを唆し、北京の学生運動に火をつけ中国の民主化を企てた結果、あの無残な天安門事件が起きました。

今回もしかりで、ウクライナを強引に西側(民主主義国家群)に引き入れようとしたために、ロシアによるウクライナ侵攻という惨事を招きました。

リベラリズムという巧言は、結果として世を乱すのです。