特別自治市制度に疑問

特別自治市制度に疑問

川崎市や横浜市など、政令に基づく自治が認められた特別な自治体のことを「政令指定都市」(以下、政令市)と言います。

全国に20ある政令市は、それまで道府県が担っていた事務や権限の一部が移譲されて成立してきた経緯があることから、どうしても道府県との役割分担が不明確な点があったり、あるいは財政面でも道府県との調整が必要となったりすることが多く、ゆえに政令市首長からは「このままでは指定都市のポテンシャルを十分に発揮できない…」などの意見がでていました。

そうした意見が集約され、今では政令市の首長らが一丸となって「道府県なんていらない。もっと財源と税源と権限を俺たちによこせ!」と思うようになり、彼らは『特別自治市制度』なる新たな大都市制度の創設を提言しています。

いわば、逆「大阪都構想」ですね。

現に、なんとか維新は「政令市なんていらない。すべての財源と税源と権限を大阪都によこせ!」と言っていましたので。

地方行政のあり方を考えたとき、自治体として国に対し「財源」を求めるのは理解します。

理解するというより、率先して行うべきです。

しかし「税源」を求めるのはいかがなものか。

安定的に入ってくるおカネ、そして自由に使えるおカネが欲しいのはわかります。

しかしながら、まず租税の本質を理解しなければならない。

租税には多様な機能がありますが、中央政府と地方政府とを一体化した政府(一般政府)としてみた場合、租税は財源確保の手段ではない。

租税がもつ機能とは、①インフレ率の調整、②景気の調整、③所得格差の調整、④特定の政策目標を達成するためのインセンティブ、⑤租税貨幣論、の5つです。

むろん地方税などは地方自治体の自主財源であり、税収こそが自治体財政を支えているのは事実ですが、それは地方自治体には「通貨発行権」がないだけの話です。

税収の落ち込みにより自治体の歳入が不足する場合には、国(通貨発行権を有する中央政府)が責任をもって地方交付税交付金措置で補うべきです。

そのことが充分に行われていれば、税源を自治体に移譲する必要などありません。

詰まるところ、租税がもつ国家機能が理解できていないから、「(自治体に)税源をよこせ…」という発想になってしまうのでしょう。

「そんなこと言ったって、国(中央政府)にもおカネがないじゃないかぁ~」と言われそうですが、自国通貨建てで国債を発行し、変動相場制を維持できる我が国に財政破綻(デフォルト)などありえず、インフレ率(コアコアCPIはマイナス)が許すかぎりにおいて日本政府に財政制約などありません。

であるからこそ国は、もっと地方交付税交付金を充実させるべきです。

因みに、冒頭のグラフのとおり、政府歳出のなかに国債の償還費を計上している国は先進国で我が国だけです。

他の先進国は借り換えで償還しています。

それで何も問題はありません。

しかも日本政府は国民から徴収した税金で償還するというあり得ない愚を犯しています。

されば地方自治体の首長たちは、国に対し「馬鹿げた国債償還費なんて無くし、もっと地方交付税交付金を増やせ…」と主張すべきです。

求めるべきは税源でなく財源です。

前述の『特別自治市制度』について付け加えておきますと、川崎市や横浜市のような都市部の自治体は税源移譲すれば間違いなくやっていけるでしょうが、過疎化の進む地方では税源移譲してもやっていけない自治体がたくさんあります。

現在でも都市部と地方部での財源格差は大きい。

そうした格差を埋めるための財源調整や政策調整をするのが中央政府の役割です。

ゆえに中央政府から税源や権限を奪い取るという発想は、ある意味で地方軽視の発想とも言えます。