ウクライナ情勢は、依然として緊迫状態が続いています。
きのう、在日ロシア大使が記者会見を開き、ウクライナ情勢について言及しました。
「米国やその同盟国は、世界が既に多極化しているという事実を無視し、世界への影響力や覇権を維持しようとしている」と。
このように大使は米欧を強く牽制しつつ「日本も同調すべきではない」との考えを示しました。
さて、ロシアにとって「ウクライナが西側陣営に加わることは絶対に許せない!」という気持もまんざら解らなくもありません。
ウクライナは1991年のソ連崩壊によって独立を果たしましたが、ロシアにとってはウクライナがNATO傘下に入ることは安全保障上の理由のみならず、歴史的にも文化的にも民族的にも許せないはずです。
なにせウクライナの地は、ロシアの歴史的ルーツの一つであるキエフ公国の地です。
ご承知のとおり、独自のスラヴ文化圏を開花させた国こそキエフ公国です。
スラヴ人は中欧と東欧に多い民族です。(ロシア人はスラヴ系民族)
彼らはインド・ヨーロッパ語族の一派なので、いわばヨーロッパ人なのですが、西欧に多いゲルマン人やラテン人とは言語の系統が異なります。
一方、宗教もキリスト教なのですが、西欧がカトリックやプロテスタントであるのに対し、スラヴ人に多いのは東方正教会です。
つまり、同じヨーロッパ語族でありキリスト教徒なのですが、対立モードになったときには言語や宗教の差異で相手を「よそ者だ」と認識するスイッチが入るのでしょう。
まさに今、西側と対決モードになっているロシアはこのスイッチが入り、そのアイデンティティを強く主張しているのだと推察します。
プーチン氏も自身のことを、ウクライナをロシア圏内に引き戻す歴史的な作戦のリーダーだ、と自認しているようです。
なお、プーチン氏が強気になれる理由の一つには西側の結束力の弱さがあると指摘されています。
その事例が、アフガニスタンです。
昨年、米国がアフガニスタンから一方的に撤退したとき、他の西側諸国はなにもしませんでした。
現に今も、米国はウクライナに兵器を供給していますが、ドイツは送っていません。
ドイツのショルツ首相も「殺戮兵器の輸出を支持せず」と表明しています。
因みに、ショルツ首相のこの発言の後に、ドイツ海軍のトップが辞任しています。
ドイツの腰が引けているのは、ドイツが天然ガスの輸入をロシアに依存しているからでしょう。
彼の国は世界中の反原発派から「脱原発を実践して偉い」と褒められていますが、その分、フランスが原発でつくった電力を輸入し、ロシアからは天然ガスを大量に輸入しているわけです。
まるでプーチン氏は結束する力を欠く西側の足元を見透かしているようです。
加えて、プーチン氏を刺激したのは、昨年9月にウクライナで行われた世論調査です。
なんと81%がプーチン氏に対して否定的だと答えたとのこと。
ウクライナ世論がNATO加盟に傾くことはロシアにとって大きな脅威でしょうから、国境付近への戦力集中を急いだのも察しが付きます。
他人ごとのように述べていますが、実はウクライナ危機は私たち日本人にとっても直接的に大きな現実問題です。
仮にロシアがウクライナに侵攻した場合、おそらくは軍事と非軍事の境界を曖昧にした「ハイブリッド戦」による侵攻となることが濃厚ですが、今現在、ウクライナはNATO非加盟国です。
それに覇権国としての力を失った米国が直接的に軍事介入することも考えられません。
現に米国はNATO加盟国であるポーランド、ドイツ、ルーマニアに3000人規模の米軍を派兵することを決めましたが、むろんウクライナには派兵しない。
せいぜいロシアに対して経済制裁するぐらいでしょう。
実は、中国による台湾侵攻も同様です。
国連に加盟していない台湾は、米国とともに集団的自衛権を行使する法的根拠がない。
米国が出張らないとなると、中国が台湾を飲み込むのは時間の問題です。
そして尖閣諸島もしかりです。
今や日本の海上保安庁の巡視船の内側を中国の海警局が警備をしている有様です。
そこに中国の漁民等が上陸して生活実態などをつくられでもすれば、実効支配は日本から中国へと移り、尖閣防衛は完全に日米安保の適用外となります。
冒頭のロシア大使の言葉にあるように「世界が既に多極化しているという事実を無視し」てはなりません。
もしもプーチン氏と習近平氏が示し合わせて同時に侵攻を仕掛けた場合、米国は2極同時に対処することはできないものと思われます。
米国による一極秩序時代であれば、それも可能だったでしょうが、ロシア大使が言うように「今や多極化している」のが現実です。
もう一つ懸念されるのがエネルギー問題です。
米バイデン政権は、日本を含むアジアのLNG(天然ガス)輸入国に対し「欧州に液化LNGを融通できるか?」と打診したようです。
むろん、ウクライナ危機に伴い、ロシア産ガスに依存する欧州の分散調達を支援するためです。
冬場の電力需要の増大が見込まれるなか、我が国においてもエネルギー需要の逼迫は避けられません。