依然、ウクライナ情勢が緊迫しています。
もしもロシアによるウクライナ侵攻が決行されるのであれば、その形は軍事と非軍事の境界線を曖昧にした、いわゆるハイブリッド戦によって行われることが予想されます。
ハイブリッド戦の具体例とは、国籍を隠した不明部隊を用いた作戦、サイバー攻撃による通信や重要インフラの妨害、インターネットやメディアを通じた偽情報を流布し撹乱する等々です。
例えばロシアが民間軍事組織にウクライナ軍を装わせロシアに攻撃を仕掛け、ロシア側はそれに応戦するという体裁で本戦にもちこみウクライナ東部を制圧する、という想定も考えられます。
ロシアがウクライナにどう仕掛けるのか、まさに国際社会が懸念し注目するところですが、最も注目している指導者の一人が中国の習近平主席であることにまちがいはなさそうです。
プーチン大統領は「ウクライナはロシアの一部である」などと言っていませんが、習近平主席の方は「台湾は中国の一部だ」と言っています。
習近平主席としては、まずは北京五輪を無事に成功させたのち、そして次の米国大統領選挙が行われるまでの間のいずれかの時期に仕掛けたいはずです。
しかも秋には五年に一度の共産党大会もありますので、習近平統治が内部的に不安定化した場合には可能性は高まるのではないでしょうか。
ご承知のとおり、これまで中国の台湾侵攻(1954〜1955年の第一次、1958年の第二次、1995〜1996年の第三次)はことごとく失敗しています。
しかしながら、2001年に米国が中国をWTO(自由貿易協定)に加盟させて以来、中国経済が大成長したことで人民解放軍の予算は大幅に増加され、その軍事力は飛躍的に拡張されました。
特に、対台湾ミサイルの質量が格段と向上し、航空戦力は未だ質量が不十分ながらも空母2隻を保有するにいたり、逐次増加される見込みです。
これに対して台湾の軍事力増強は明らかに不十分です。
だからこそ2021年3月、当時の米国太平洋軍司令官が「台湾への脅威は、今後6年以内に明らかとなる」と議会で証言されたのだと思います。
ただ、中国側にも弱みがあります。
台湾海峡の幅は150〜200kmと広く、しかも浅い。
加えて、この海峡は海流が速く気象も不順で、台湾には上陸に適した海岸が少ないときています。
ゆえに、中国には約4万の海兵隊隊員がいますが、それでもその数での上陸は困難であるらしく、さらには陸軍も含む何十万人もの人員とその補給品を運び揚陸する船舶も足りないらしい。
なので、今すぐ戦火が上がる可能性は低いのではないか、という見方もあります。
さて、そうしたなか昨年12月、安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と述べられました。
これを、あの櫻井よし子さんが嬉しそうに「よく言った当然!」と称賛されたらしいのですが、果たしてどうか。
台湾有事は日本にとって日米安保条約第6条に該当することであり、日本有事は同条約第5条に関する問題です。
そこまで理解されての発言だったのでしょうか。
なお、安倍元総理は2016年に自ら拵えた「平和安保法制」により、日米台による集団的自衛権行使ができるようになった、と誤解されている節があります。
集団的自衛権の行使を他国に要請することができるのは、国連で認められた国家だけです。
残念ながら、台湾は国連加盟国ではありません。
要請がないままに日米が台湾に軍隊を出動させた場合、それは集団的自衛権行使とは認められないため、国際法上、日米が中国の一部に侵略したことになってしまう可能性すらあります。
おそらくは、米国が集団的自衛権を根拠に台湾危機に介入することはあり得ない。
事実、今までもそうでした。
よって「集団的自衛権」ではなく、世界の平和、あるいは東アジアの平和を守るために、台湾に武力行使する中国を制裁しなけばならないとして「集団安全保障措置」として介入するのだと推察します。
集団安保措置とは、国連安保理が主導し、国連軍として行動することが原則ですが、多くの場合、国連決議に基づく多国籍軍(湾岸戦争など)、あるいは国連決議に基づかない有志連合軍(イラク戦争など)の形をとって実施されるものです。
よく「安保理決議に基づかない有志連合軍は国連憲章違反だ」と主張する人たちがいますが、これを安保理が「国連憲章違反だ」として指弾したことも決議したこともありません。
なぜなら、その有志連合軍には通常、安保理常任理事国の一つが関わっているからです。
因みに、集団的自衛権の行使は「権利の行使」ですが、集団安保措置への参加は「責務の遂行」です。
何の留意事項も付けることなく国連に加盟している我が国は、国連憲章が掲げる集団安保措置の責務を誠実に遂行する義務を負っています。
しかしながら、我が国の為政者たちは集団的自衛権の重要性ばかりを説いています。
まことに残念です。