誰かの赤字(負債)は、必ず他の誰かの黒字(資産)である。
これは逃れることのできない普遍原則です。
以下、それを前提にしてご高覧頂ければと思います。
毎年1月、世銀(世界銀行)は、最新の「世界経済見通し」を発表します。
それによると、今年はコロナ感染の拡大、物流網の混乱、食料やエネルギー価格の高止まりなどのリスクから「世界経済は減速する」との見通しを示しています。
具体的な成長率は、2021年が5.5%であったのに対し、2022年は4.1%、2023年は3.2%へと減速するとしています。
因みに中国の成長率については、2022年は5.1%、2023年は5.3%、というように今後2年にわたって着実に成長するとしているのに対し、我が日本国のそれは、2022年が2.9%、2023年が1.2%とみられています。
世銀の予測どおりであれば、日本と中国との防衛力格差が益々もって拡大していくわけです。
さて、きのう早速、NHKが世銀による「世界経済の減速懸念」を報道していましたが、なんとNHKは「各国のコロナ対策費の膨張により世界全体の債務が日本円にして2.6京円となって過去最大を記録した」と、例によって世の不安を煽っています。
その上で「もはや積極的な財政政策を行う余地のある国は少ない」と言う。
典型的な貨幣のプール論に陥っています。
この論理だと「火星や金星など、どこかの星に行って、金や銀などの貴金属をもってこないと地球が破産するぅ〜」となってしまいます。
前述したとおり、例え2.6京円の負債があったとしても、その反対側(地球上)には2.6京円の資産をもっている人たちがいるだけの話です。
そのことに何か問題でもあるのでしょうか。
つまりNHKは「世界の資産が日本円にして2.6京円に達してしまった。だから大変だぁ〜」と言っているに等しいわけです。
まこと無知というのは恐ろしい。
NHKは「積極的な財政政策を行う余地のある国は少ない…」と解説しているあたり、日本も財政支出を拡大するのは難しいとでも言いたいのでしょう。
なにせNHKのみならずテレビ・新聞メディアはことごとく「緊縮財政派」です。
国民の多くは知らないままでいますが、緊縮財政派の総本山である財務省が幅を利かす日本政府は、2027年度にはPB(基礎的財政収支)を黒字化しようとしてます。
PB黒字化とは、要するに政府財政を、税収だけで歳出を賄うことができる状態にすることです。
まさに家計簿財政です。
このことの恐ろしさを知るべきです。
もう一度言います。
誰かの黒字は、誰かの赤字です。
よって、次のような恒等式が成立します。
政府収支 + 民間収支 + 海外収支 = 0
つまり、政府と民間(企業と家計)と海外、それぞれの経済主体がすべて黒字になることは絶対にあり得ないのでございます。
例えば民間が黒字になるためには、政府か海外、もしくは双方に赤字になってもらう必要があります。
経常収支黒字国である日本の場合、海外の収支は常に赤字ですので、内閣府の中長期の経済財政試算においても海外収支は対GDP比で4%強の赤字が続くという想定になっています。
だとすれば、政府が財政赤字の縮小を図ると、民間の黒字が縮小せざるを得ないことになります。
冒頭のグラフのとおり、内閣府は海外の赤字(日本の経常収支の黒字)は一定という想定のもとに政府財政を黒字化するとしていますので、当然のことながら民間は黒字を減らすことになるわけです。
「政府収支 + 民間収支 + 海外収支 = 0」という恒等式がある以上、棒グラフは必ず上下対象になりますので。
もうお解りですね。
要するに、PB黒字化目標とは、民間赤字化目標そのものなのです。
さらに考えてみてほしい。
現在の日本は企業優遇の税制や制度改革が進んでいますので、民間赤字化の負担は企業ではなく「家計」に押し付けられることになります。
具体的には、社会保障支出の削減、あるいは負担増、さらには消費税増税などです。
何度でも言います。
貨幣のプール論も、緊縮財政による財政再建論もすべて間違です。
財政支出(通貨発行)の拡大による需要創造、及び生産性向上のための投資の拡大こそが、インフレ率を抑制しつつ国民経済を豊かにしていく唯一の手段です。
デフレになるほどの国内供給能力を有している我が国の場合、政府の通貨発行(負債拡大)の余地は充分にあります。