国は2011年の東日本大震災以降、千島海溝沿いと、北海道の南から岩手県の沖合にかけての日本海溝領域で起きる地震被害について専門家らによる検討を進めてきました。
このたび、その検討結果が公表されました。
国の中央防災会議の作業部会が検討したのは、日本海溝のうち、北海道の南から岩手県沖にかけて起こる地震(M9.1想定)と、千島列島から北海道の沖合にかけての千島海溝で起こる別々の地震(M9.3想定)です。
これらの地震は、発生間隔が300年から400年とみられているのに対し、ここ300年以上も起きていないことから発生が切迫している状況にあるとされています。
まず、日本海溝沿いでマグニチュード9.1の巨大地震が発生した場合、東北や北海道の各地で10メートル級の津波が押し寄せ、死者は北海道を中心に千葉県までの沿岸で合わせて最大で19万9000人に達し、22万棟が全開すると推計しています。
また、千島海溝沿いでマグニチュード9.3の巨大地震が起きた場合、北海道東部を中心に20メートルを超える津波が押し寄せ、死者は北海道から千葉県までで最大で10万人に及び、8万4000棟が全壊するという。
死者や建物被害は、ほとんどが津波によるもののようです。
一方、想定では、防災対策を進めた場合には死者数を80%減らすことができるとしています。
ただし前提として、浸水域にいるすべての人が地震から10分ほどで避難をはじめる必要があるとしています。
そのうえで、そうした人たちが逃げ込む緊急の避難場所を確保することも必須条件となります。
問題は、避難が困難な地域です。
津波が到達するまでに最寄りの「高台」や「津波避難ビル」や「避難タワー」に徒歩で逃げ込むわけですが、浸水が想定される地域の中には半径数キロ以内(徒歩でたどり着ける距離)にそうした逃げ込み場所のない地域があります。
今後、こうした地域をいかに減らしていくのかが大きな課題だとしています。
例えば、市街地のほとんどが津波の浸水域になっている北海道釧路市は、避難が困難な地域の解消にいち早く取り組んでいるという。
津波の際の緊急避難場所として、公共施設だけでなく、商業施設や企業のビルなどを含め113箇所を緊急避難場所として指定し、これをさらに増やそうとしているらしいのですが、それでもさすがに困難地域の完全解消の目処は立っていないようです。
住民からは「避難タワー」などの建設を求める声が上がっているらしい。
釧路市は避難ビルが確保できない場合には新たに「津波避難タワー」を建設することを検討しているのですが、そこでお約束の財源問題が妨げの障壁になります。
内閣府の調査によると、北海道から福島県にかけての沿岸では、660軒の津波避難ビル、56基の津波避難タワーが既に整備されていますが、南海トラフ巨大地震が想定されている地域に比べると遅れているのは明らかで早急なる整備が求められています。
これらの整備を財政制約のある地方自治体の責任に委ねるところが理解できません。
例えば、津波避難タワーを整備した自治体に対しては、国は地方交付税交付金を充実させるか、あるいは1基あたりの整備費に国庫補助をつけるかなどの対策を講じるべきです。
むろん、財源は国債でいい。
なのに国はプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標を堅持しているために地方交付税交付金等や国庫補助金等を拡大しようとはしません。
財源を理由に、こうした命綱となる施設が建設されないのは実に馬鹿げています。
先日も川崎市議会において「将来的にも財政が厳しいのだから、生活保護などの福祉サービスを制限しなければならないことを市民に伝えるべきだ」と言い放った議員がいる。
人の命に関わる行政施策と財政収支とを天秤にかけること自体がそもそもお粗末です。
前述のとおり、地方自治体に財政制約があるのは確かです。
地方自治体には通貨発行権がありませんので。
とはいえ、日銀がすべての地方債を購入してしまえば、地方の財政問題など一切なくなるという程度の話に過ぎない。
政府、地方自治体、日本銀行(中央銀行)は統合政府ですので、日銀が地方債を購入した時点でバランスシート上、地方債という負債は相殺されるのでございます。
このように言うと必ず、「日銀がすべての地方債を購入したらハイパーインフレになるぅ〜」という人がでてくるでしょう。
だったら、日銀は一気に購入せず、一定の期間をかけて徐々に購入すればいいだけです。
そうすれば制御不能なインフレになることもないでしょう。
巨大津波が想定される沿岸の自治体に地方債を発行させ、その財源をもって津波避難タワーを整備させ、その地方債の分だけでも日銀が買い取ってくれればいい。
それだけでも地方自治体にとっては有り難い。
命よりも財政収支が優先される政治は、どうみてもおかしい。