きのう内閣府が7~9月期の需給ギャップ(GDPギャップ)を発表しました。
需給ギャップとは、個人消費や設備投資といった経済全体の需要と、労働時間や資本稼働率からはじきだした潜在的な供給力の差を表したものです。
要するに日本経済の「需要」と潜在的な「供給力」の差を示します。
需要が供給を上回るとプラス(インフレギャップ)、下回るとマイナス(デフレギャップ)になるわけですが、内閣府によれば7~9月期のGDPギャップはマイナス4.8%だったとのことです。
明らかなデフレ(需要不足)状態です。
金額にすると年換算で27兆円の需要不足となり、4~6月期より5兆円もギャップが拡大した計算になります。
潜在GDP ー 需要 = 27兆円
「計算になる…」と申し上げましたのは、この算定方法には実は大きな問題があるからです。
冒頭のグラフをみると明らかなように、GDPギャップがプラスになっている時期があります。
しかしながら本来、GDPギャップではデフレギャップを算出することはできるものの、インフレギャップを算出することは不可能なはずです。
なぜなら、需要とは誰かによってモノやサービスが購入されなければ需要としてカウントできないものだからです。
つまりインフレギャップは、購入されていないものが購入されているという前提に立って計算されているわけです。
どうしてこのような矛盾を来した統計になってしまったのか言うと、潜在GDPの算出方法がある者の手によって変更されてしまったからです。
もともと潜在GDPは、国民経済において既に存在する生産要素である「労働力」や「資本(設備等)」がフルに稼働した場合に生産可能なGDP(最大概念の潜在GDP)として計算されていました。
ところが、ある時期、ある者の手によって「最大概念の潜在GDP」が「平均概念の潜在GDP」へと定義が変更されてしまったのです。
平均概念の潜在GDPとは、国民経済における各生産要素を、それぞれ過去の「平均的な水準」で供給した場合に実現できるとGDPのことです。
要するに、GDPの過去平均 = 潜在GDP、とされてしまったわけです。
もうお解りですね。
これではデフレ経済が続けば続くほどに潜在GDPは低く見積もられることになってしまいます。
つまり、現実のGDP成長率が低下すればするほど成長率も後を追って下がってしまうことになります。
例えば失業率が10%であろうと20%であろうと、その経済状態が継続すればそれが最終的に平均になってしまうわけです。
このように潜在GDPの定義が「最大概念」から「平均概念」に変更されてしまったことにより、なぜかインフレギャップが計算されるという不思議な状況になっています。
しかも、平均概念の潜在GDPから算出されたデフレギャップは、現実のデフレギャップよりも小さく計算されてしまうことになります。
今回、内閣府は年率換算で27兆円のデフレギャップがあるとしていますが、実際にはもっと大きなギャップがあることは明らかです。
過日、岸田内閣が発表した経済対策の規模では、このデフレギャップを埋めることは不可能でしょう。
さて、ある時期、ある者の手によって「最大概念の潜在GDP」が「平均概念の潜在GDP」へと定義が変更されたわけですが、その「ある時期」とは小泉内閣のときであり、「ある者」とは竹中平蔵氏のことです。
できうるかぎりデフレギャップを小さく見せるために、こうした概念変更を行ったとしか思えません。
なんのために?
むろん、緊縮財政のために!