ベネズエラで南米最大の難民危機が発生しています。
正式な国名はベネズエラ・ボリバル共和国。
彼の国では国内の政情不安と社会経済の混乱が食料難をもたらし、人道危機の深刻化によって、なんと人口の約5分の1にあたる540万もの人々が故郷を追われ国外に流出しています。(国連難民高等弁務官事務所の推計)
その数は、約10年間にわたり紛争が続いているシリアに続きます。
さて、ベネズエラでは、2013年に実施された大統領選挙でマドゥーロ候補が勝利し新政権が発足しました。
マドゥーロ新政権はチャベス前政権の政策路線を踏襲したものの、治安や経済情勢の悪化が進んでしまったらしい。
政権が発足した翌年(2014年)には早くもベネズエラ国民の不満と不安は高まり国外に脱出する人たちが増え、その後も国民の国外流出は留まることを知らず増え続け、2019年に入ってもさらに情勢は悪化しており、この5年間だけで避難民が6000%も増加、一日に5000人ものベネズエラ人がコロンビア、チリ、ペルーなど近隣諸国に流出している計算になります。
むろん、新型コロナウイルス拡大の影響もあって避難民の生活状況は悪化しているとのことです。
国民の不安と不満を高めた最大の理由は社会情勢とインフラの悪化です。
とりわけ、国内各地で停電、断水、ガソリン不足が相次ぐほどに社会インフラの悪化が深刻化しているという。
物資が不足していることから、いまやベネズエラのインフレ率(物価上昇率)は南米で最も高くなっており、昨年のインフレ率は2355%(IMF推定値)という凄まじい数字です。
かつては拡大し続けてきた大規模な中間層も既に事実上消滅し、いまや国民の96%が貧困ライン以下の暮らしをしているという。
衰退しはじめているとはいえ、まだまだ公共インフラの恩恵を享受している私たち日本国民には計り知れないほどの「絶望」がベネズエラ国民に襲いかかっているわけです。
経済の崩壊も凄まじく、1人当たりのGDPは2013年の危機前の4分の1程度に落ち込んだということで、ある試算によると2012年以降のベネズエラ経済の凋落は平時の現象としては世界的にも先例がないという。
需要が不足するデフレ経済下にある日本国民にはピンとこないかもしれませんが、供給能力が極端に不足するインフレ経済もまた恐ろしい。
理想的な経済とは、政府や企業が常に生産性向上のための投資を行うことで供給能力を上回った分の需要(インフレギャップ)埋め続ける経済のことです。
生産性が向上すると、従業員一人当たりの「生産量」が増えます。
ゆえに、GDP三面等価一致の原則(生産=需要=所得)から、生産性向上は国民に実質賃金上昇という恩恵をもたらすわけです。
しかしながら現在の我が国は供給が需要を上回るデフレ経済であり、これを放置するとやがて供給能力は毀損されていき需要と供給の間に埋めがたいギャップ(需要>供給)が生じ、究極的にはベネズエラ経済(高インフレ率経済)と同じ状況になります。(その前にエネルギー価格高騰によるコストプッシュ型インフレの危機が迫っていますが…)
経済疲弊は必ず社会の不安定化と治安の悪化をもたらします。
現にベネズエラでは既に治安そのものが維持できなくなっています。
今はマドゥーロ大統領が率いる犯罪集団がどうにかまとまりを維持し内輪もめを回避しているらしいのですが、やがて武装犯罪組織の縄張り争いがはじまってしまうと、ベネズエラの国全体をアナーキー状態に陥れる可能性が大です。
因みに、こうしたベネズエラに対して我が国は…
①無償資金協力で14.21億円(2018年度まで)
②技術協力実績で107.65億円(2018年度まで)
…の支援を実施するとともに、2017年以降はベネズエラ避難民への支援として、ベネズエラ国内及びコロンビア、ペルー、エクアドル、ブラジル等の周辺国に対して計4,400万ドル以上の関連支援を行っています。