岸田さんが掲げてきた「令和版所得倍増計画」が、いつのまにか消えている。
確かに総裁選のときの岸田さんは「所得を倍増する」と言っていたはずですが、いつのまにか「令和の所得倍とは、まんべんなくみんなの所得が上がることです」みたいに軌道修正されています。
要するに「倍増じゃない…」と。
先日行われた衆議院総選挙の際に自民党が掲げた公約(法定ビラ)をみても、政策のなかで「所得」という言葉が使われているのはわずか3箇所しかありません。
一つ目は「仕事内容に比して賃金の水準が長い間低く抑えられてきた方々の所得を向上に向け…」
二つ目は「分配によって所得を増やし…」
三つ目は「農村・農業の所得増大」
以上の3箇所だけです。
因みに「倍増」という言葉が使われていたのは「宇宙産業市場の倍増…」のという一箇所だけです。
ただ、宇宙産業市場は軍事技術にも直結する最先端分野なので、ある意味で放っておいても拡大していく国際的な成長分野です。
デフレ経済下にある今の日本で所得を倍増するには、まずはGDP(所得の合計)を拡大するために政府が財政政策(支出の拡大)を講じる必要があります。
分配はそのあとの話です。
そもそも今の政府には、大規模かつ長期にわたって支出を拡大する気などさらさらありません。(PB黒字化目標の堅持)
なのでおそらく「令和版所得倍増計画」は総理ご自身がイメージだけで語ってしまった選挙むけの「根拠なきキャッチフレーズ」だったのでしょう。
現に総理ご自身が雑誌のインタビューで「(所得倍増は)現実的ではない!」と言い切っています。
とはいえ、せっかく掲げた旗なのですから、簡単に降ろしてほしくはありませんでした。
なぜなら総理の決断さえあれば、その具現化はけっして難しいことではないからです。
せめて「低所得者層の所得については倍増します」ぐらいは言ってほしかった。
これならもっと政策的ハードルが低い。
その具体的政策は次のとおりです。
①消費税の廃止
②社会保険料の減免
ご承知のとおり、低所得層の所得税は低い。
ざっくり言って5%ぐらいです。
負担が重くのしかかるのは主として消費税と社会保険料です。
例えば企業に雇用されている場合、厚生年金については労使折半で負担しています。
なので年収3百数十万円の人は、年金だけで40万円ぐらいを支払わなければなりません。
折半ですので、むろん企業側も同額負担します。
さらには、企業にとって人件費は消費税の対象になります。
消費税について多くの人々が誤解されていますが、これは消費者に対する税金ではありません。
企業が獲得した「付加価値」に課せられる税金です。
付加価値とは、①人件費、②投資の減価償却、③利益の三つです。
現在、これらに10%の消費税が掛けられています。
つまり企業が支払う社会保険料を含めた人件費に対し、更に10%の税金が課せられているわけです。
多くの企業が正規雇用から非正規雇用に切り替えているのはこのためです。
あるいは企業にっては、人を正規で雇うより、フリーターを雇ったりフリーランスと事業委託契約を結んだりしたほうが社会保険料を支払うことなく、かつ消費税を支払うことなく労働コストをカットできます。
税理士もまたこうした手法を大企業などに伝授してきたらしい。
我が国の雇用が悪化していったのはこうしたことが背景にあったのです。
ゆえに、消費税廃止と社会保険料の減免を行うだけでも、低所得層の所得は倍増とまでいかずとも1.5倍ぐらいには拡大することが見込まれます。
もちろん、人件費の原資を得た企業には労働分配率をあげてもらわねばならないので、「分配」のための追加策が必要になりましょう。
やり方は色々あります。
岸田総理が『令和版所得倍増計画』を取り下げた最大の理由は、岸田総理が正しい貨幣観を持ち合わせていなかったことだと思います。
ただただ残念です。