今日はアフガニスタン情勢についてです。
イスラム主義勢力タリバンが武力で権力を掌握してから2月半が経ちましたが、各地で自爆テロが相次ぐなど治安が悪化しているうえ、食料不足もあって人道危機が深刻化し多くの命が危険にさらされています。
相次ぐテロは、タリバンとは敵対関係にある過激派組織IS(イスラミック・ステート)の地方組織によるものらしい。
8月末には首都カブールで100人以上が犠牲になった大きな自爆テロがありましたが、先月から今月にかけてもタリバンやイスラム教シーア派のモスクを狙った爆弾テロや銃撃がカブールや北部のクンブズ、南部のカンダハルなどで相次ぎ大勢の死傷者がでているようで、食料不足も相まってアフガニスタンの人道危機は深刻化し、多くの人々が命の危険にさらされているとのことです。
タリバンが権力を掌握して以降、食料不足と物価の高騰が深刻化し、現在は国民の97%が十分な食事をとれておらず、なかでも子供たちの栄養不足は極めて深刻な状況にあり餓死する子供もでているといいます。
WFP(世界食糧計画)は、年末までに5歳未満の子供の半数にあたる320万人が栄養不良に陥り100万人が命を落とす恐れがある、と警告しています。
アフガニスタンでは長く戦乱が続いたために用水路などの農業インフラが荒廃しています。
それに加え、深刻な干ばつの影響もあって食料の絶対量が足りず国際支援に頼らざるを得ない状況が続いているという。
WFPのビーズリー事務局長は「人道支援を強化しなければ数百万人が家を追われるか飢えるかの選択を迫られることになる。いま行動を起こさなければ大惨事が起きる」と警告しています。
ところがタリバンに対する国際社会の不信感が強いこともあって支援が滞っています。
タリバンは権力を掌握した直後、国内すべての勢力が参加した政権をつくると内外に公約していました。
しかしながら暫定内閣の閣僚や副大臣のポストはタリバンが独占しています。
前の政権やタリバン以外の政治組織からの任命はありません。
なおアフガニスタンは多民族国家ですが、閣僚ポストはタリバンの母体である多数派のパシュトゥン人で占められ、タジク人やウズベク人などの少数派の民族はごく僅かで、女性は一人も含まれていません。
国内すべての勢力が参加した政権をつくるという約束は反故にされたかたちです。
こうした経緯から、アフガニスタンが再び国際テロの拠点になるのではないかという国際社会の懸念が高まっています。
暫定政府の閣僚のうち、テロ組織への関与などの理由で国連安全保障理事会の制裁対象となっている人物がおよそ半数を占めています。
とくに治安を守るべき内務省のトップである内相代行に任命されたハッカーニ氏は数々のテロを首謀したとして制裁や指名手配の対象となっています。
加えて米国など各国は、タリバンと国際テロ組織アルカイダとの関係が依然として切れていないと見ていますし、敵対するISが数年以内に再び台頭する可能性が高いとして強く警戒しています。
タリバンとISは思想的に近い部分もありますが、激しい勢力争いを繰り広げており、タリバンの統治が行き渡らない地域にISが拠点を築くという構図です。
そしてタリバンの内部では軍事部門と政治部門とのあいだで権力闘争が起きているらしく、国際社会からの要求を受け入れるのは難しくなっていると専門会は指摘しています。
米国やヨーロッパ諸国は「暫定政権はすべての勢力が参加しているとは言えず、人権が守られるかどうかにも重大な懸念がある」と批判しています。
そんなタリバンに資金が渡らないよう、アフガニスタン政府が海外に保有する資産を凍結する措置をとっています。
一方、ロシアや中国は、資産凍結を解除し人道支援に充てるべきだと主張しています。
タリバンは国際社会に対して政権の承認と人道支援の継続を求めていますが、いずれの国も政権承認にはタリバンの行動を見極めるべきだとして慎重な姿勢をとりつづけています。
去る12日、G20サミット(主要20カ国首脳会議)の緊急会合がオンライン形式で開かれ、各国は必要な人道支援を暫定政権ではなく国連機関を通じて行う方針が確認されています。
とはいえ、具体的にいつまでどうやってアフガニスタンの人々に支援物資を届けるのかの道筋は見えていません。
WFPは、来年3月のあいだまでに2280万人(国民の半数以上)が深刻な食料不足に陥る恐れがあり、充分な支援を行うためには毎月250億円あまりの資金が必要だとして国際社会に緊急の支援を呼びかけています。
これに対し日本政府は、総額65億円あまりの緊急無償資金協力を実施することを決めています。
アフガニスタンにも厳しい冬が迫っています。
その前に充分な食料や支援物資を人々の届ける体制を確立することが求めらています。
とりわけ国際社会はタリバン政権とのあいだで政権承認の問題とはべつに人道支援をどう進めるかについての具体的な交渉を急ぐ必要があります。
そのとき、我が国は何ができるでしょうか。
私たち日本国民は自国のことのみに専念してはならないのです。