目下、衆議院議員総選挙の真っ最中ですが、私の住む川崎市では衆院選と同時に川崎市長選挙が行われています。
市長選には、現職の福田市長のほか新人2名(男性1名、女性1名)が立候補されています。
各候補者の政策や考え方については選挙管理委員会が発行する『選挙広報』に概略が記載されていますので、ぜひご覧頂きたいと思います。
さて、『選挙広報』で各候補者の政策をみますと、新人女性候補のメイン政策に「市長の報酬削減」と「市の財政の黒字化」が謳われています。
要するに「コストカットで財政を黒字化します」と言っています。
そしてコストカットの象徴として「市長報酬の削減」を掲げているわけです。
これらはいずれも新自由主義系の候補者なら必ず主張するお題目です。
ジョン・クイギンが言うように、新自由主義はなかなか死なず、ゾンビのように顕れます。
いつも言うように、行政の黒字は民間(家計・企業)の赤字を意味します。
ゆえに、この候補者は政策のトップに「市民の懐を赤字にする」と訴えているのだから凄い。
もしも当選された場合、ご自身(市長)の給料を引き下げるのはご勝手な話ですが、市民の所得まで削減するのはやめてほしい。
もしかするとこの候補者は「川崎市の財政がずっと赤字である」と誤解されているのかもしれない。
だとしたらそれは大きな間違いで、上のグラフをご覧のとおり、川崎市のプライマリーバランス(基礎的財政収支)は2005年以降ずっと黒字です。
むしろ黒字額が多すぎて市民生活を貧しくしていることのほうが問題なのです。
当該候補者の肩書をみますと「起業家・企業の役員」とありますので、例によって「株式会社の発想で行政を黒字にします」と言いたいのでしょう。
なんどでも言いますが「株式会社」と「行政」とでは、その存在目的が根本的に異なります。
株式会社の存在目的は「利益の追求」であって、行政のそれは「経世済民」です。
経世済民こそ「経済」の語源です。
ここがポイントで、「経営」を知っているからといって「経済」を知っているとはかぎらない。
この候補者、おそらくは起業家として立派な人なのでしょうが、最低条件として為政者は「経済」と「経営」の違いを理解しなければならないと思います。
因みに、先日、ある著名な経営者の方とお話する機会がありました。
曰く「私は経営者として絶対に自分の給料を下げない」とのことでした。
なぜなら、経営者の自分が自分の給料をカットしてしまうと、社員に対して「やがて俺たちの給料も下げられるのだろう」という要らぬ不安を与えてしまうことになり組織のモチベーションが下がってしまうからだと言っておられました。
なるほど経営の世界においても「経営者の報酬カット」が必ずしも善ではないようです。
いずれにしても「市長の給料が高い」あるいは「公務員の給料が高い」と言って、有権者のルサンチマン(鬱屈とした不満)を煽り、新自由主義的政策を並べたてて「票」を掘り起こすのが彼ら彼女らの常套手段です。
そんな選挙が30年間も繰り返されて、こんな日本になりました。