全ての政策的誤りは、在りもしない「財政破綻論」にある

全ての政策的誤りは、在りもしない「財政破綻論」にある

100人を超える犠牲者を出した台風19号(2019年)による豪雨災害から2年が経ちました。

我が川崎市においても内水氾濫や河川の越流が発生しましたが、長野県の千曲川、福島県の阿武隈川など全国140箇所以上で堤防が決壊し、広い範囲に洪水被害を及ぼしたことは記憶に新しい。

そもそも流域治水は、ダム、遊水地、都市型貯留施設、堤防、河川の浚渫等々、各種の治水インフラの構築とメンテナンスによって確立するものですが、こともあろうに我が国では多くの国民が在り得ない財政破綻に怯え、病的なほどの緊縮財政によって行政が治水インフラの整備を怠ってきました。

結果、何年に一回という豪雨が襲うたびに、我が国土は甚大な被害に見舞われています。

いつも言うように、我が国は世界でも屈指の自然災害大国です。

列島を貫く2000メートル級の脊梁山脈からは海に向かって滝のように無数の川が流れ落ちてきます。

加えて国土は台風の通り道であり、昨今では気候変動から集中豪雨も増えています。

ゆえに他国に比べ治水事業におカネを要するのは当然です。

にもかかわらず、我が国では国も地方も〇〇の一つ覚えのように「財政の収支均衡のほうが大事」と言う。

この国には財務省というお役所があるらしいのですが、そこの現役の事務次官が「日本の財政は破綻するぅ〜」という、いわゆる財政破綻論を『文藝春秋』に寄稿したことが問題となっています。

総選挙の直前に寄稿するあたりが実に悪質です。

この事務次官の財政破綻論に対し自民党の高市政調会長が「失礼だ。国民生活を犠牲にしてPBを維持しようとするのはおかしい」などと反論しているようですが、問題の根本は失礼かどうかではない。

そもそも事務次官の言う「財政破綻論」が事実ではないことを国会やメディアを通じて国民に伝えるべきです。

高市さんの反論の仕方だと「財政破綻してでも今はカネを使え」というニュアンスになってしまいます。

少なくともマスコミの報じ方から受ける印象はそうです。

本来、高市さんの言いたいことは「財政破綻などしないからおカネを使え!」のはずです。

メディアを通すと国民には正しく伝わらないのか、それとも高市さんをはじめ財出派の反論の仕方が下手なのか。

さて、2年前の台風19号を契機にして、防災目的でないダムを含め今あるダムを総動員することで「洪水の被害を小さくしよう!」という取り組みが進められています。

全国にはダムが1,470個あり、そのうち洪水対策を目的とする治水ダムは4割、水道用、農業・工業用水用、発電用の利水ダムが6割を占めています。

治水ダムは大雨の前に事前放流を行い、ダムの水位を下げて大きな容量を確保します。

そして大雨のときに流れ込む大量の水を貯め下流に流す水の量を減らすことで下流の氾濫を起こりにくくしています。

一方、利水ダムは、水の確保が優先されますのでこうした運用は行われていません。

そこで「既存施設を最大限に活用すべきだ」という声が高まり、国はダム事業者と協定を結び、利水ダムも洪水対策に協力させることになりました。

こうした事前放流の協定は全国420水系で結ばれ、必要な全てのダムで取り組むことになっています。

国はこれによって洪水対策に使えるダムの容量が2倍に増えたとしています。

しかしながら、現実は以下のとおりです。

例えば木曽川の上流、長野県木曽町に牧尾ダムという水道水、農工業用水用の利水ダムがあります。

このダムでは、ことし8月の記録的豪雨の際に事前放流を行いました。

3日前から事前放流をはじめ、満水より6メートル下げて大雨をむかえ、ピークのときに流れ込む水に対して流す水を20%カットしました。

このとき牧尾ダムを含め木曽川上流にある5つの利水ダムが事前放流などで東京ドーム43個分の空き容量を確保したとのことです。

国交省はこれにより下流の観測点で水位を70センチ押し下げたと推定しています。

ところが、下流の南木曽町では、氾濫危険水位を超える状態が長い時間つづき住民に避難指示が出されています。

場所によっては川岸が崩れかけたところもありましたが、ギリギリのところで氾濫を免れたわけです。

南木曽町の町長は「ぎりぎりのところで氾濫を防げたのは事前放流のお陰だと思っている。たいへん感謝している」と言っていますが、住民には避難指示がだされ、町はギリギリの状態で河川氾濫の危機に晒されてきたわけです。

仮に命が助かっても、人々の思い出や財産が蓄積されている家々が流されてしまったらどうなるのか。

おカネで解決できる話ではありません。

たまたま南木曽町はギリギリのところで耐えただけで、雨量がもう少し多かったらどうなっていたのでしょうか。

あるいはもしも大雨を予測できずに事前放流できなかったらどうなっていたのでしょうか。

逆に事前放流した後に、今度は降雨量が足りずに水不足になったらどうなっていたのでしょうか。

ゆえに利水ダムで事前放流するには制度の高い降雨予測が不可欠になるわけですが、スーパーコンピュータを駆使したアンサンブル予報によるダム管理システムについても未だ開発段階のはずです。

もちろん、既存ダムを最大限に活用すること自体に異議はありませんが、それだけで自然災害の驚異から国民を守るにはあまりにもリスクが大きすぎるのではないでしょうか。

詰まるところ、在りもしない財政破綻に怯えていることが、我が国の治水対策を誤らせているように思います。

我が国は財政破綻などあり得ない主権通貨国なのですから堂々と建設国債を発行し、既存ダムの嵩上げ等を含め総合的な流域治水の整備に努めていくべきです。