ころもだらけの天ぷらは要らない

ころもだらけの天ぷらは要らない

国内では緊急事態宣言、まん延防止等重点措置がすべて解除されました。

政府は各種の行動制限についても段階的に緩和する方針です。

もしもワクチン接種の開始が遅れていなければ、もっと早い時期に宣言も重点措置も解除されていたと思います。

先進諸国に比べ実質的に約5ヶ月も遅れてしまったことの悪影響ははかりしれません。

にもかかわらず、驚いたことに「ワクチン接種は遅れたけど、外国などの事例を参考にして慎重にやった結果だったから今となってはよかった」などと、ワクチン接種開始の遅れを評価する人たちがいます。

典型的な木をみて森をみない意見です。

木というより、自分の周りのことしか見えていないのでしょう。

当たり前ですが、自分が裕福だからといって世のなか全体が裕福だとは限らないし、自分が貧しいからといって世のなか全体が貧しいとは限らない。

いつの時代でも、自分の知らないところで困っているひとは大勢いるのです。

コロナの直撃を受けた多くの企業は、これまで政府や自治体が用意した実質的に無利子・無担保の融資や雇用調整助成金の特例措置、時短営業などを行った飲食店への協力金などの支援策でなんとか経営をつづけ雇用を支えてきたのです。

それでも今年に入ってコロナの影響で経営破綻した企業は、8ヶ月連続で一ヶ月あたり100件を超え、破綻で仕事を失った人もこれまでに正社員だけで2万人を超えています。

そのうえ抱えている借金も増えています。

特に心配されるのは体力のない中小企業です。

3社に1社が「債務が過剰…」と答えた調査結果もあります。(東京商工リサーチ)

飲食や宿泊などのサービス業では80%ちかい企業が「借金が重くのしかかっている」と答えているようです。

因みに、10月からは過去最大の上げ幅で最低賃金が順次引き上げられていきます。

経営が厳しい中小企業にとって、デフレ下での最低賃金の引き上げは耐え難い負担となります。

今後は協力金などの支援も徐々に縮小される方向にあるでしょうから、当面、売上が元の水準にもどらないとすれば耐えきれず破綻する企業や仕事を失う人が増えることになります。

ワクチン接種を可能にする予防接種法が国会で成立したのは昨年の12月です。

しかしながら「接種にあたっては、外国での事例等をみて慎重に国内でも治験を行う」という附帯決議がついてしまったがために、我が国での接種開始は他の先進諸国に比べ約5ヶ月も遅れる結果に至ったのです。

結果、集団免疫の獲得に余計な時間を要し、宣言や重点措置の解除が大幅に遅れて経済活動の制限が長引いたのです。

加えて、菅内閣はPB黒字化目標を破棄することなく堅持してきたために中小企業や個人への補償も不十分のままでした。

これらにより、どれだけの中小零細企業が追い込まれていると思っているのでしょうか。

「接種が遅れて良かった…」などと、よく言えたものです。

岸田新政権は数十兆円規模の経済対策を行うとしていますが、真水(実質的な財政支出)の規模が重要です。

“ころもだらけの天ぷら”のように、融資枠の拡大などで、とにかく規模だけを膨らませた経済対策では意味がありません。

追い詰められた企業や個人には、もはや「借りる」力さえ残っていないのです。