米国では、反トラスト法を強化する動きが活発です。
反トラスト法とは、①企業による市場の独占および取引制限行為を禁じたシャーマン法、②その強化を図ったクレイトン法、③連邦取引委員会法など、①②③を総称したもので、我が国の「独占禁止法」のモデルとなった法律です。
これを強化すべきとするバイデン政権と、当然のことながらこれに反発するアマゾンなどGAFAと呼ばれる米国ハイテク巨大プラットフォームとの戦いがはじまっています。
どうやら反トラスト政策の主眼は中国ハイテク産業の排除というより、サプライヤーを増やすことでプライチェーンの多様性を高めることにあるようです。
むろん、プラットフォーム企業によるデータの囲い込みや不透明な処理に対する問題提起もあるでしょう。
バイデン大統領の意気込みは強く、反トラスト法の取締機関であるFTC(連邦取引委員会)の新たな委員長に強化急進派とされる32歳新進気鋭のリナ・カーン氏を起用しています。
彼女は急進派と言われつつも、客観的データを重視するクリエイティブな考え方の持ち主のようです。
とりわけアマゾンにとっては彼女が余程に目の上のタンコブのようで、FTCによる反トラスト法違反の一連の調査からカーン氏を外すことを要求しています。
そもそも、こうした要求をすること事態、いかにGAFAが米国の政治経済において力を持ちすぎているかがわかります。
ハイテク企業とFTCとの戦いは米国の企業にとって今後の5~10年を象徴する戦いになることが予想されますが、プラットフォーム運営会社は一歩も引かない姿勢のようで、米国、ブリュッセル、諸外国でのロビー活動を活発化させています。
ただ、風向きは反トラスト法を強化すべきという世論にあり、やがてシカゴ学派(新古典派経済学の本山)の判例を破る反トラスト法の訴訟が起こされ、それを突破口にあらゆる垂直統合が問題視されることになるのではないでしょうか。
一方、中国においても企業に対する規制強化の動きが活発化しています。
例えば、7月2日には滴滴出行をインターネット規制当局が審査開始と発表し、6日には海外上場企業の管理強化の方針を発表、そして10日には顧客100万人以上で海外上場の場合には事前審査を必要とするなどを発表しています。
中共政府が規制を強化する理由は大きく分けて3つあるようで、一つ目には中国企業が海外で上場することによって国内のビッグデータが海外へ流出することの恐れがあり、二つ目には海外で上場した中国企業への監視の目が十分に届かなくなること、三つ目には国内であってもテック企業にビッグデータを持たせることのリスク懸念があるようです。
とくに三つ目が重要のようで、中共政府の手が届かないところでビッグデータが活用されていくと、やがて体制変革を求める世論がいつの間にか形成されてしまう可能性も否定できません。
ゆえにデータはあくまでも企業のものではなく中共政府のためのものだ、という専制主義の中国らしさを示しているのでしょう。
ただ、識者によれば、今回の中国の規制強化は、人民の個人データをいかにして保護するか、あるいは消費者保護といった観点からも国家管理が必要だという新しい考え方もあるようです。
だとすれば、日本も見習わなければならない部分もあります。
さて、これまでは米中それぞれの巨大プラットフォーム(GAFA対BATH)がグローバルな競争経済の中でしのぎを削り合って戦う、という近未来像が描かれてきましたが、米中双方の規制強化によって少し様相が変わってくるのかもしれません。
中共政府などは「べつに中国の巨大プラットフォームが世界を席巻する必要などない。国内で活動していれば十分だ」とさえ考えているようです。
即ち、このままいくと、米中の巨大プラットフォーム企業同士が世界で競争対立する時代は来ない可能性が大です。
これを中国の専制主義の限界とみるむきもありますが、私は違うと思います。
中国の専制主義の限界というより、1980年代から続いたグローバリズムそのものの限界だと思います。
国境を超えたカネ、モノ、ヒトの移動の自由を最大化するグローバリズム政策が抜本的に見直されているなか、米国での反トラスト法強化の動き、そしてハイテク大手とFTCとの戦いが、世界の独禁法政策の行方に大きな影響を与えることは間違いありません。