駆け込み利上げ

駆け込み利上げ

きのう、日銀は利上げを決めました。

政策金利は0.5%となり、2008年10月以来、17年ぶりの高い水準となります。

さらに年内の再利上げも視野に入っているという。

これを受け三菱UFJ銀行は、3月から普通預金金利を0.1%から0.2%に引き上げ、変動型住宅ローン金利の指標となる短期プライムレートも引き上げるらしい。

つまり、預金の多い家計の収支にはプラスに働きますが、企業にとっては利払い増となる見通しです。

日銀が利上げに踏み切った理由は、以下のとおりです。

①昨年に続きしっかりとした賃上げを実施するとの声があること

②基調的な物価上昇率が2%に向けて徐々に上昇していること

③為替円安等に伴う輸入物価の上振れがあること

まず、私たちが理解しておかねばならないのは、日銀(中央銀行)はその職務上、為替レートの変動の影響を受けて政策金利を決定してはならない存在であるということです。

メディアでは「円安だから日銀が利上げするのは当然だ」という主張が平然と散見されますが、為替レートに影響されて金融政策が決定されることなど絶対にあってはならないことです。

そもそも、為替レートは市場で決まるものです。

一方、私たち日本国民は金融主権を持っています。

厳密には、私たち日本国民が選んだ国会議員たちで構成される内閣が日銀の人事権を持ち、内閣と日銀がアコード(accord)を結ぶことによって連携して政策にあたることになっています。

もしも日銀が「円安だから…」という為替相場の理由で利上げを決定したとすれば、それは為替市場に金融政策が影響を受けてしまった、即ち国民の金融主権が侵害されてしまった、ということになります。

そこだけは絶対に抑えて置かねばならない視点です。

ゆえに日銀の植田総裁も「円安に対処するために利上げした」とは言わず、「為替円安等に伴う輸入物価の上振れがあるから利上げした」という言い方をしており、あくまでも物価については日銀の所管、為替政策については財務省の所管、という建前を採っているわけです。

とはいえ、今回の利上げは誠に愚かな判断であると言わざるを得ません。

本来、日銀が利上げしなければならない物価上昇局面とは、それはデマンドプル型インフレ、すなわち需要拡大による物価上昇局面です。

需要牽引型の物価上昇の場合、企業の利益と人々の所得は必ず上昇します。

すると、投資意欲、消費意欲が旺盛となった企業や家計など民間部門の「銀行借入」が増えます。

みんながおカネを借りまくる状態を放置しておくと、デマンドプル型インフレのインフレ率が適正な水準を超えて上昇し、景気がさらに過熱してやがてバブル経済になります。

バブルは必ず崩壊します。

そうならぬように、即ち適正なインフレ率(デマンドプル型インフレのインフレ率)を維持するために「利上げ」という金融政策の手段が存在しています。

つまり、政策金利を引き上げ、おカネを借り難くすることで「国民の皆さん、少し落ち着いてください!」とやるわけです。

しかしながら、現在の物価上昇の要因はデマンドプル型ではなく、輸入物価の上昇に影響を受けたコストプッシュ型のインフレです。

コストプッシュ型である以上、国内の需要はまったく盛り上がっていません。

とりわけ、民間の資金需要はまったく回復しておらず、現在の日本企業はおカネを借りるどころか、むしろ未だに返し続けているという状況にあります。

日銀の資金循環統計でも、企業は資金不足状態(おカネを借りたいという状態)にはなく、資金過剰状態(おカネを借りる必要がない状態)にあることが明白となっています。

なのに、どうして敢えておカネを借りにくくするための「利上げ」に踏み切らねばならないのでしょうか。

日銀が政策金利を0.5%に引き上げたことで、短期プライムレート(最優遇貸出金利、以下、短プラ)が上がります。

短プラが上がると、例えば住宅ローンの変動金利が影響を受けますので、所得が増えていないにもかかわらず住宅ローンの返済額だけが増えてしまう、という人たちがでてきます。

つまり可処分所得が減ってしまいますので、今回の利上げはデフレ化政策になります。

繰り返しますが、デフレ化政策が必要とされるのは、デマンドプル型インフレのときです。

ご承知のとおり、現在の日本経済はデマンドプル・インフレの状態にはなく、デフレとコストプッシュ・インフレが併存している状態です。

デフレとコストプッシュ・インフレのなか、短期でおカネを借りなければならない中小企業や零細企業にとって今回の利上げは、さらに資金繰りを苦しくするものです。

まこと、理解に苦しみます。

もっとも、日銀は元来より「インフレ・ファイター」であり、財務省が常に財政収支を均衡させたいのと同様に、日銀は常に「利上げ」をしたくてたまらない組織本能をもっています。

その日銀が、なぜこの時期に利上げをしたのか?

それは、2024年のGDP成長率がマイナスになることがすでに予想されており、その発表を来月(2月)に控えているからです。

マイナス成長が発表されてからでは、さすがに利上げなどできない。

ゆえに、発表前に駆け込みで利上げしたのです。

日銀もまた財務省と同じように「国民経済を無視する役所」と化してしまいました。