PB赤字の拡大が家計の貯蓄率を上げる

PB赤字の拡大が家計の貯蓄率を上げる

きのうの夕方、日本経済新聞のネット記事で「家計貯蓄率が3年連続で低下した」という記事をみつけました。

『家計貯蓄率、23年度は1.5% 支出増で3年連続低下
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2648N0W4A221C2000000/
2023年度の家計の貯蓄率は1.5%と3年連続で低下した。可処分所得が増加した一方、物価上昇に伴い消費支出も増えた。貯蓄にまわったお金は4兆7千億円となり、3年連続で減少した。(中略)直近で貯蓄額が最も大きかったのは20年度の37兆6千億円だった。新型コロナウイルス禍で消費が抑制され、家計貯蓄率は11.8%だった。ここ数年は経済活動の正常化に加え、物価上昇もあって貯蓄を取り崩して消費に回す傾向が続いている。(後略)』

記事に書いてあるとおり、直近で貯蓄額が最も大きかったのは2020年度の37兆6千億円だったのは事実です。

内閣府が公表している『国民経済計算年次推計』にそのように記載されています。

ですが、その理由を日本経済新聞は「新型コロナウイルス禍で消費が抑制された」としているあたり、相変わらず頓珍漢な分析力をみせています。

しかも「ここ数年は経済活動の正常化に加え、物価上昇もあって貯蓄を取り崩して消費に回す傾向が続いている」と書いていますが、経済活動が正常化しているのであれば、なぜ家計は貯蓄を切り崩す必要があるのでしょうか。

貯蓄を切り崩さねばならないほどに、所得上昇が物価上昇(コストプッシュ・インフレ)に追いついていないのが現状でしょうに。

日本経済新聞の言う「経済活動の正常化」とは、いったい何を意味しているのでしょうか。

おそらくは「コロナ禍から脱したことによる経済活動の再開…」と言いたいのでしょうが、コロナ禍が去ったとはいえ、コロナ以前の状況を取り戻すことは不可能です。

敢えて「正常化」という言葉を使うのは、すでに日本経済は政府支出拡大の必要性がないことを強調したいのでしょうか!?

日本経済新聞は、インフレの分析も常に大雑把です。

経済新聞を名乗るのであれば、もうちょっと正確に物価の上昇原因を分析してほしい。

例えば、2020年代初頭のインフレは、コロナ禍による労働力不足と物流の混乱が主因でした。

そして2022年以降のインフレは、ロシア・ウクライナ戦争による食料価格やエネルギー価格の高騰が主因となり、パンデミックが収束してからは日米の財政支出の差が金利差をもたらし、為替相場が円安にむかって輸入物価が上昇したことに起因しています。

ガソリン価格や電気代などは今なお高止まっています。

たしかに、パンデミック後の需要増もありますが、コロナ禍を機に生産能力を低下させてしまった業種は少なくありません。

加えて少子化による労働力不足の問題もあります。

ゆえに今こそ、生産能力(供給能力)を強化するための官民投資(公共投資、設備投資、技術開発投資、人材投資)が求められるところですが、不確実性が高く、需要増も見込めず、未来に不安しかない経済情勢のなかでは、民間企業に投資を期待するのは極めて難しい。

だからこそ、それらを払拭することのできる政府こそが、通貨発行権を活用して長期的かつ大規模な投資計画を立てるべきなのです。

世の中全体に資金需要がない今、民間企業が政府に先がけてカネを使うわけもなく、結果、家計は貯蓄を切り崩さざるを得ないのでございます。

因みに、家計の貯蓄率は政府の財政行動に大きく影響されます。

ここで言う「家計の貯蓄率」は、資金循環統計上の家計の資金過不足を名目GDPで除したものです。

上のグラフのとおり、政府が緊縮財政をはじめてデフレに突入した1998年以前の家計の貯蓄率は対GDP比で6%以上もありました。

その後は、例によって財務省主導で緊縮財政が強化され、家計の貯蓄率は低迷し続けました。

なお、日本経済新聞が報道しているように、2020年に貯蓄率が上がったのは、コロナ禍の財政出動でPB(基礎的財政収支)赤字を再び拡大したからです。

PB(基礎的財政収支)とは、社会保障や教育行政など国の政策経費を税収だけで賄えているかどうかを示す指標です。

賄えていれば黒字、いなければ赤字、赤字の場合は国債発行(通貨発行)で埋めます。

ただし、自国通貨建てで国債を発行した場合、それは事実上、返済不要な借金ですので、PBが赤字でも全く問題はありません。

そして、PB赤字を拡大すれば、家計の貯蓄率は必ず上がります。

グラフを見れば一目瞭然ですが、2021年から2023年にかけて貯蓄率が下がっているのは、PB赤字を減らしたからにほかなりません。

日本経済新聞が言う「家計貯蓄率が3年連続で低下した」原因はそれです。

PB赤字を減らせば、家計の貯蓄率も減る。

これが事実です。

財務省の御用新聞である日本経済新聞としては、絶対に記事にはしないでしょうけど…