企業に代わって資金需要を拡大せよ

企業に代わって資金需要を拡大せよ

私が市議会議員に成りたてのころ、世の政治家たちの多くは枕詞のように「失われた10年…」という言葉を使っていました。

日本経済がデフレに突入した1990年代後半から、ちょうど10年の歳月を経ようとしていたころで、むろん経済成長しない日本を嘆いてのことです。

残念ながらその後も、わが国はデフレ経済から脱却することができず、ついに今では「失われた30年」になってしまったわけです。

この間、実質賃金は下がりに下がりつづけ、その一方、いわゆる「構造改革」なる新自由主義的政策が断行されたことにより、社会を支える中間所得層は破壊され格差が拡大していきました。

デフレ突入前は18%もあったわが国のGDP世界シェアは、2023年末の段階でわずか4%にまで落ち込んでしまいました。

この30年間、まちがいなくわが国は発展途上国化したのでございます。

そして、コロナ・パンデミックとロシア・ウクライナ戦争以降、こんどはコストプッシュ・インフレに見舞われていることから、日本国民はさらなる実質賃金の下落に苦しんでいます。

為替相場で円安が進んだこともあって輸入物価が高止まりしていることもあって、昨年は日米の金利差に対する日銀批判が相次ぎましたが、コストプッシュ・インフレであっても経済基調がデフレ(総需要の不足状態)である以上は、思うように金利を上げることもできません。

このような経済環境のなかで「はやく金利を上げろ!」という批判がでること自体、国会議員を含め、世の多くの人々が「デフレとは何か」をよく理解できていないことの証左なのでしょう。

デフレとは「物価が下落する…」という物価現象の話ではなく、「総需要が不足する…」という需給バランスの不均衡現象です。

ゆえに、コストプッシュ・インフレとデフレが併存しても何の不思議はなく、物価だけでデフレかどうか判断することはできないわけです。

にもかかわらず、「インフレ(コストプッシュ・インフレ)だから、デフレを脱却した」とまで言い切る国会議員さえいるから実に厄介です。

一方、昨年6月、自民党の『財政政策検討本部』が当時の岸田総理に提言したなかに、新たな財政指標の一つとして「政府・民間のネットの資金需要」が入っていたことが活気的でした。

なぜなら、ネットの資金需要は経済のデフレ度をはかる一つの尺度になるからです。

ネットの資金需要とは、政府と非金融法人企業(民間企業)の資金過不足の対GDP比のことであり、その数値がマイナスになったほうが資金需要が旺盛で経済成長力を有するということを意味します。

国民経済において、債務を増やし投資すべき主体は政府と企業です。

上のグラフのとおり、バブル崩壊以前のネットの資金需要はことのほか旺盛で、とりわけ日本企業が積極的に債務を増やし投資を拡大していたことがわかります。

次いでバブル崩壊以降は、企業に変わって政府が債務を増やすことで経済(資金需要)を支えていたことがわかります。

日本経済がデフレに突入した1998年以降、ネットの資金需要は企業の資金過多に引っ張られて弱くなってしまいました。

というより、政府が緊縮財政によりネットの資金需要を縮小してしまったがゆえにデフレに突入したのです。

2020年にネットの資金需要が大幅に拡大したのは、ご承知のとおりコロナ対策で政府が国債発行額を増やしたからですが、そのまま5年間ぐらい同規模の国債を発行し続けていれば、日本は完全にデフレを脱却できたことでしょう。

グラフをご覧のとおり、岸田緊縮によりネットの資金需要は縮小してしまいました。

因みに、日本経済が安定的に成長するためには、ネットの資金需要が少なくともマイナス5%を下回っている状態でなければなりません。

デフレ経済により企業の投資意欲が乏しい今、企業に代わって資金需要を拡大することができる経済主体は政府のみです。