政策論はリアリズムに基づかねばならない

政策論はリアリズムに基づかねばならない

シリアのアサド政権が崩壊してから1週間が経ちました。

亡命先のロシアでのアサド氏の動向はわかりません。

今回の政権転覆は、反アサドの武装勢力が、イスラエルがヒズボラに大きなダメージを与えた好機を逃さなかったことが大きい。

弱体化したヒズボラ、そしてウクライナ戦争に気をとられているロシアが、シリアのアサド体制支援に力を入れるのは難しい状況にあったのでしょう。

アサド氏も「亡命はロシアからのオファーだった」としています。

なお、米国の次期大統領がトランプ氏に決まったこともまた、反アサド武装勢力を勢いづかせたのかもしれません。

中東のみならず、ロシア・ウクライナ戦争ほか、中国の海洋進出等々、国際政治はまさに混沌としていますが、間違いなく言えることは、リベラリズム(ユートピアニズム)的平和主義が悉く失敗しているということです。

冷戦終結後、米国はリベラリズムに基づく国際秩序の形成を目指し、1997年以降、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大を図りました。

旧東側諸国をNATOに加盟させてソ連を封じ込めれば、世界は平和になると考えたわけです。

しかしながら、『X論文』で有名なジョージ・ケナンは、「NATOの東方拡大はポスト冷戦時代の全体を通じて、米国の政策の最も致命的な過ちとなるだろう」と指摘しました。

その指摘どおり、NATOの東方拡大はロシアの国粋主義的、反西側的、軍国主義的傾向を刺激助長し、かえってロシアの民主主義発展を逆行させ、ついにはウクライナのNATO加盟問題が最終的な引き金となってロシア・ウクライナ戦争が勃発してしまいました。

また、現在の代表的なリアリストでもあるジョン・ミアシャイマーも全く同様のことを言っています。

「ウクライナのNATO加盟、EU加盟、そして親米的な自由民主主義国家への転換といった、リベラリズムの企てが、ロシアのウクライナ侵攻を引き起こした」と。

一方、冷戦が終結したとき、スタンフォード大学の政治学者フランシス・フクヤマ氏は著書『歴史の終わり』において、「政治制度の最終形態は自由民主主義であり、それが広がれば安定した政治体制が作られて歴史は終わる」と発表して注目を浴びました。

要するに、「東側陣営が崩壊し全ての国々が民主化すれば、それは歴史の終わりを意味する」と言ったわけです。

この発想もまた、歴史や現実を無視したリベラリズム的発想であったと言わざるを得ない。

そもそも「議会制民主主義の殿堂…」とまで言われているイギリスこそが、世界中にどこの国よりも多くの植民地を支配し搾取しまくったではないか。

「核兵器を廃絶すれば、世界は平和になる」もまた、事実と歴史を無視した典型的なリベラリズム(ユートピアニズム)です。

国際政治に限らず、リアリズムを失った政治的判断が結果として世に不幸をもたらすのでございます。

あす、私は川崎市議会で一般質問に立ちますが、リアリズムに基づいて質問する所存です。