11月11日、第二次石破内閣が発足した直後に行われた記者会見で、石破総理は半導体投資について次のように述べられました。
発言をそのまま掲載すると、石破氏特有のねちっこくてイライラする言葉(文章)になってしまいますので、それを避けるために私が要約して箇条書きにします。
①熊本のTSMC(台湾積体電路製造)誘致は地方創生の好事例だから今後も全国で増やしていく。
②2030年度までにAI(人工知能)・半導体分野に10兆円以上の公的支援を行う。
③今後10年間で50兆円を超え官民投資を引き出すために新たな支援フレームを策定する。
この発言に対し、日本経済新聞の記者が次のように質問をしました。
「2030年度までにAI・半導体分野に10兆円以上の公的支援を行うとされたが、この10兆円の原資は?」
この質問に対する石破総理の回答は…
(ここでは発言をそのまま掲載します)
「支援の原資につきましてはこれから各省庁間で議論することになりますが、一つだけ申し上げておきたいのは、この支援の原資について赤字国債は発行しないということでございます」
各省庁間で議論する、というのは要するに財務省様にお伺いを立てなきゃならないという意味でしょう。
だから財務省様のご機嫌を損なわないように「赤字国債は発行しない」と事前に念を押しているわけです。
相変わらず総理の目は、国民生活でなく財務省様の方に向いています。
例えて言うなら、まるで恐妻(財務省)の尻に敷かれた旦那さん(総理)が手もみをしながらお小遣いをねだるような話です。
確かに家計にとっては「赤字は悪」ですので、旦那さんのお小遣いが何に使われるのかのチェックは致し方ありません。
ですが、政府の赤字は国民生活を豊かにするためには必須なものです。
我が国には政府や地方行政の支出について「無駄だ!」とレッテル貼りをする人たちがメディアを中心に大勢いますが、実際には「無駄な支出」など存在しません。
例えば川崎市が公共事業で「誰も使わない施設」を建設したとしましょう。
誰も使わない施設であっても、これを建設した時点で川崎市は建設会社に対して支出をしているために、建設に従事した人たちの所得が生まれています。
さらには、もしもその施設を解体すれば、今度は解体に従事した人たちにも所得が生まれます。
むろん、「将来のための資本」という意味においては、その施設は無駄だったかもしれませんが、少なくとも川崎市の支出は「誰かの所得」になっているので「無駄な支出」ではありません。
「いや、そうは言っても将来使われぬ施設におカネを使うのはやっぱり無駄だろ!」
と、批判したくなると思いますが、そもそも「無駄のない支出」など、政府であれ、企業であれ、家計であれ、この世の誰にもできません。
とくに技術開発の分野では、ほとんどの支出は「無駄」という話になってしまいます。
なぜなら、その技術が将来どのように役に立つのか、将来どれほどの利益をもたらすのか等々、誰にも予想などつきません。
よく巷には「官にはできないが民間なら可能だ…」という人たちもいますが、実際には企業においてもほとんどの投資は無駄になります。
考えても見よ。
もしも民間の投資が100%成功するのであれば、この世に倒産する企業などあるまいに。
技術投資に限らず、投資のリスクをゼロにすることは不可能です。
もっともリスクが小さい人材投資にしても、雇用される人が本当に企業の生産性向上に貢献してくれるのかどうかは、事前にはわかりません。
だからこそ、通貨発行権(自国通貨建てで国債を発行できる力)を有する政府こそが、率先して投資(支出)しなければならないわけです。
いつも言うように、政府の赤字は民間(企業、家計)の黒字なのです。
さて、愚かなことに石破総理は「赤字国債を原資にはしない」と言い切っています。
であるならば、PB(基礎的財政収支)黒字化目標が今なお堅持されている以上、他の何らかの事業予算が削減されることになります。
私が記者であったなら、そのことを質問したことでしょう。
「国債を原資にしないのなら、どの予算を減らすのですか?」と。
むろん、石破総理は次のように答えるにちがいない。
「それにつきましては、やはり各省庁間で議論をつくしたうえで、極めて慎重に考えていかなければならないと思っております…」
いずれにしても、石破内閣は長くない。