教員給与の引き上げ問題をめぐり、財務省と文科省との攻防が続いています。
残業代が出ない代わりに公立学校教員の給与に上乗せしてきた「教職調整額」の増額について、文科省は「教育の質を担保するために人員増もセットで一気に増額せよ」と主張しているのに対し、財務省は「残業時間を減らしながら徐々に引き上げるべきだ」と主張しています。
来年度予算案(政府原案)が決まる年末に向け、攻防は激化しそうです。
ご存知ないかたもおられるかもしれませんが、現在、どこの教育委員会でも「教員のなり手不足」で困っています。
川崎市の教育委員会もしかりです。(川崎市の場合は、給与以外にも問題が多々ありますが…)
ゆえに文科省は、給与の引き上げによって処遇改善を図りたいと考えています。
そこで文科省は、残業した教職員に対し、これまではサービス残業扱いにならぬよう「教職調整額」というかたちで僅かな金額を給与に上乗せし誤魔化してきたのですが、来年度からこれを一気に増額したいわけです。
一方、それに徹底抗戦している財務省は、一昨日に財務相の諮問機関である『財政制度等審議会(分科会)』を開催し、教員の時間外勤務を減らすことを条件に「調整額を段階的に引き上げていく案」を提言させています。
財政制度等審議会は財務省の御用学者が幅を利かしてる組織ですので、文科省の望む結論など出すはずなどありません。
このように財務省が歳出抑制圧力をかけるのは、むろん文科省に対してだけではありません。
あらゆる省庁に対して歳出の削減を求めます。
なにを根拠に?
むろん、毎年6月に閣議決定されている『骨太の方針』に、「2025年までのPB黒字化目標」が謳われているからです。
PBとは基礎的財政収支のことで、歳入(公債費を除く)よりも歳出(国債償還費を除く)を小さくすることをPB黒字化といいます。
こんなもの、財務官僚が鉛筆をなめなめしてつくった意味のない数値目標であって、これを達成したところで国民経済にとっても国にとっても、何のメリットもありません。
まさに百害あって一利なしです。
「政府の黒字は民間(家計・企業)の赤字」という、逃れられない物理法則がある以上、コストプッシュ・インフレとデフレが併存している今、政府収支を黒字化するメリットなど何一つない。
ところが、財務省が歳出削減圧力をかけてない政策分野が二つだけあるのをご存知でしょうか?
一つは半導体関連、もう一つは防衛関連です。
この二つの分野には、ある共通点があります。
それは、ともに米国様から「歳出を拡大せよ」と言われている分野です。
政府は今、熊本のTSMCや千歳のラピダスをはじめ、半導体関連には何千億円という規模でカネを出しており、防衛費については2023年からの5年間で総額43兆円にまで増やします。
むろん、増やすのは良いことです。
しかし財務省は、国民が望んでもちっとも言うことを聞かないくせに、米国様に言われるとすぐにカネを出す。
残念ながら、財政主権は財務省と米国にあるのであって、私たち日本国民には無いのです。
なお、お解りでしょうか。
PB黒字化目標があるかぎり、この二つの分野の歳出が増える分、他の分野の歳出はさらにカットされることになります。
すなわち、教育予算はもちろんのこと、科学技術予算、公共事業予算、地方交付税交付金、そして食料・エネルギー安全保障強化のための予算等が、半導体関連や防衛予算が増えた分、減らされることになるのでございます。