ことし7月、米コロラド州で開催されたアスペン安全保障会議の際、ブリンケン国務長官は衝突が続くハマスとイスラエルについて「(解決すべき問題は残っているものの、米国の関与により)永続的な平和と安定を築く軌道に乗せる合意を得るという目標に向けて前進している」と述べていました。
しかしながら、昨今のパレスチナ報道を見ているかぎり、とてもとても和平に向けて前進しているようには思えません。
なお、ブリンケン国務長官は「中国に対するアプローチについても、米国とアジアのパートナーシップはこれほどまでに一体化がみられた時代はかつてない」とも繰り返し強調していましたが、これも疑わしい。
現実的には、米国はアジアの重要地域を担う国々からの支持を失いつつあるようです。
例えば、シンガポールのユソフ・イシャク研究所が、ASEAN(東南アジア諸国連合)に加盟する10カ国の学界、シンクタンク、NPO、メディア、政府、国際機関のメンバーたちを対象に、「もしもASEAN(東南アジア諸国連合)が米中のどちらかを選ばざるを得ない状況になったとすれば、どちらとの連携を選択すべきか?」という世論調査を行なったのですが、この設問になんと回答者の過半数が中国を選んだという。
インド太平洋地域の中枢に位置している東アジア諸国からの支持喪失の影響は小さくないはずです。
例えば当該地域にはフィリピンやタイなど、米国にとって重要な同盟国が存在していますが、中国に支持を奪われたとすれば、インド太平洋地域における米国のプレゼンスは大いに後退します。
とりわけ、米国が軍事施設を保有するフィリピンとシンガポールは、台湾有事など米中が全面的な紛争に突入した場合には重要な拠点となります。
米国の覇権国としての外交力低下は否めないのではないでしょうか。
そうした中、中国による台湾侵攻の可能性が高まっているとの報道があります。
米国政府は、早ければ来年の1月下旬をを想定しているのだとか。
中国経済の成長に陰りが見えはじめていることが、むしろその可能性を高めているとも言われています。
上のグラフのとおり、経済の実態を反映する鉄道輸送量の推移を見てみますと、少なくとも中国経済の成長が鈍化していることが伺えます。
歴史的にも、覇権国を追随する新興国の指導者が「これ以上、経済力で引き離されると追いつけない」と判断した時に大戦争は勃発しています。
古くはスパルタとアテネが衝突したぺロポネソス戦争もそうでしたし、追随国ドイツが覇権国イギリスに挑んだことによりはじまった第一次世界大戦もそうでした。
ましてや、台湾侵攻時に重要となる東南アジアにおいて米国は支持を失っているわけですから。
中国の台湾侵攻に加え、このままハマスとイスラエルとの武力衝突が続き、もしもウクライナ戦争が他のヨーロッパ地域に拡大するようなことになれば、それはもう紛れもなく第三次世界大戦です。
ウクライナ戦争が他のヨーロッパ地域に拡大するということはNATO(北大西洋条約機構)とロシアの戦争を意味し、台湾侵攻は米中戦争を意味します。(むろん、日本も関わらざるを得ない)
これまでとは異なり、戦争の本質は変化しています。
戦線が拡大すればするほど、地上ロボットや空中ドローンが大量投入されることでしょう。
仄聞するところによれば、イスラエル軍はAIプログラム「ラベンダー」を使ってハマスの戦闘員を個々に特定し、彼らの自宅をドローンで爆撃しているという。
狙われるのは最前線で戦う兵だけでなく、戦闘外地域にいる家族さえ直接的な標的になるということです。
こういう時代にあるからこそ、私は集団安全保障体制がさらに重要になっているものと考えます。
各国は同盟国のみならず関係国との率直な対話を試み、軍事の目的、役割、任務、能力、戦略に関する前提を明確にしつつ、集団安全保障体制確立のための最善の方法について理解を深めていかなければならない。
いかなる国も、一国の力で自国を守ることはできない時代なのです。