3つの選択肢の中から2つしか選ぶことができない状況、あるいは3つの解決策や選択肢の全てを受け入れることができない状況を「トリレンマ」という。
よく言われる金融経済分野での代表的なトリレンマは、①固定相場制、②独立した金融政策、③自由な資本移動の三つです。
国際金融政策において①②③を同時に実現することはできず、同時に二つまでしか実現できません。
例えばユーロ圏では、①固定相場制、②資本移動の自由の二つが確立されている一方、加盟国は③独立した金融政策を行うことはできません。
①固定相場制を維持しつつ、③独立した金融政策を行うには、②資本移動の自由を規制せざるを得ないわけです。
あるいは、③独立した金融政策を維持しつつ、②資本移動の自由を確保しようとすれば、為替相場は変動せざるを得ないので①固定相場制は失われることになります。
これが国際金融政策のトリレンマです。
一方、きのう石破内閣は脱炭素戦略を話し合う「グリーントランスフォーメーション実行会議」を内閣発足後はじめて開いたようですが、エネルギー政策の分野においてもトリレンマが存在します。
それは、①エネルギー安全保障の強化、②安価なエネルギー価格、③カーボンニュートラルの三つで、これら三つを同時に実現することは絶対に不可能で、二つまでしか同時に実現できません。
例えば、①エネルギー安全保障を強化して、同時に②安価なエネルギー価格を維持するのであれば、化石燃料の長期契約に基づく安定的な調達が必要になりますので、③カーボンニュートラルなどとは言っていられません。
エネルギー安全保障を強化するためには、当然のことながら電源やエネルギー源を多様化しなければなりませんので、「我が国は化石燃料を使いません」などと呑気なことは言っていられないわけです。
長期契約で化石燃料を買い続けるわけですから、カーボンニュートラルの実現は遠ざかります。
逆に、安価なエネルギー価格を維持しつつ、同時にカーボンニュートラルを実現しようとすれば、エネルギー安全保障は崩壊します。
ただ、このトリレンマは、技術開発によっては全部クリアすることが可能になるかもしれない。
電力の一番の問題というのは、蓄電できないことです。
現在、我が国のみならず世界中の電力サービスにおいてまともな蓄電池といえば「揚水発電」しかありません。
もしも、それ以上の蓄電技術が開発された場合、例えば東京のような巨大メガロポリスの電力をカバーできるほどの蓄電池というものが存在した場合には、例えば化石燃料の火力発電所を廃止することができるかもしれません。
例え太陽光などの再エネでも、安定的かつ大量に電気を蓄電してくれるのであれば、脱炭素化も夢ではないでしょう。
とにもかくにも、太陽光や風力の問題は偏在性が激しいことです。
要するに、不要な時に発電して、必要な時に発電してくれないことが多いわけですが、もしも不要な時に発電した電気を全部蓄電してくれるのであれば安定電源になってくれるかもしれず。
むろん、現在の技術力では不可能ですけど。
そうした技術開発投資の具現化は、プライマリーバランス(PB)の黒字化目標を破棄しないかぎり絶対に不可能です。
残念ながら「カーボンニュートラル」や「再エネをベース電源にしろ〜」と叫んでいる人たちの多くはそれを言わない。
PB黒字化目標を堅持するかぎり、技術開発の飛躍的進歩など絶対に望めません。
これはトリレンマでなくジレンマです。