迫る台湾有事

迫る台湾有事

いよいよ総選挙の投開票日となりました。

果たしてどのような選挙結果となりますでしょうか。

さて、世論が大谷選手の活躍や総選挙の報道に翻弄されている間にも、現実の安全保障環境は厳しさを増しています。

いよいよ中国による台湾侵攻が現実味を帯びはじめています。

しかし残念ながら、今回の選挙戦でも台湾有事への対策を訴えた候補者はほとんどおらず、野党は裏金問題や政権交代の必要性に特化し、与党は野党の未熟さや無責任さをアピールするばかりでした。

米国もまた大統領選挙で盛り上がっているところですが、米国の政界及び言論界では「台湾有事(中国の台湾侵攻)は起こり得るか」という議論から、今や「台湾有事は、いつ起きるか」という具体的な議論に移っているらしい。

政治学者のグレアム・アリソンは、米中衝突が避けられない状況を「トゥキュディデスの罠」と呼びました。

アリソンが、古代ギリシャの支配的勢力だったスパルタが新興都市国家のアテネの挑戦を受けて衝突した戦争を研究し発見した、いわば戦争勃発のメカニズムです。

また、テキサスA&M大学のクリストファー・レイン教授は、「覇権安定理論」を提唱し、覇権国による一極支配が次なる覇権国(台頭国)を育て、やがて覇権国と台頭国との間で覇権戦争が勃発する、と指摘しました。

なるほど、第一次世界大戦もそのように発生しています。

一方、ジョンズホプキンス大学のハル・ブランズ教授、及びタフツ大学のマイケル・ベックリー准教授の二人は、「Peak out theory(ピークアウト理論)」を根拠に、中国は2025年から2027年の間に、早ければ2025年1月に必ず台湾に侵攻すると警告しています。

この予測もまたクリストファー・レインの覇権安定理論と同様の理論基礎を成しておりますが、レインの理論よりもさらに戦争勃発の時期、状況、条件を具体的に示しています。

「大きな戦争というのは、台頭する新興国の指導者が将来を悲観しはじめた時にはじまる」と。

すなわち、急成長した台頭国の経済が停滞し、台頭国の指導者が「このままでは覇権国に追いつくことができないのでは…」と判断した時に戦争がはじまっているという。

クリストファー・レイン教授も言っているように、第一次世界大戦は覇権国イギリスに対する台頭国ドイツの挑戦ではじまりました。

ところが、ドイツは経済成長がピークに達してから戦争を仕掛けたわけでありません。

ドイツ経済の成長がピークアウトし、焦った当時の指導部が「あれっ、このままではイギリスに追いつけないかも…」と判断した結果として勃発したわけです。

なるほど、考えてみれば日米戦争もまた、1930年代に我が国の経済成長が止まり、40年代に入って政府と軍部が「このままでは米国に差をつけられる一方だ。今なら未だ戦えるかもしれない…」と判断してはじまったようなものです。

現在の台頭国である中国もまた同様の条件を満たしています。

習近平体制での経済成長に陰りが見えはじめているのは明らかで、上のグラフのとおり両国の軍事費の推移をみても、中国は再び覇権国である米国に引き離されつつあります。

足元の経済がぐらつき、台頭する新興国の指導者が将来を悲観しはじめた時が危ういのだとすれば、なるほどブランズ教授やベックリー教授が言うように、現在の中国(習近平体制)はその条件を満たしつつあります。

ウクライナとの戦争を遂行しているプーチン大統領もまた、中国の台湾侵攻を待っているのではないでしょうか。

パレスチナ(中東)、ウクライナ(欧州)、台湾(アジア)の3箇所での戦争が同時進行し、それに複数国が参加すればまさに第三次世界大戦です。

というより、すでに第三次世界大戦ははじまっていると考えていい。

むろん、中国が狙っているのは台湾だけではないことを、日本国民は理解しておくべきです。