監査体制だけを検証しても…

監査体制だけを検証しても…

ことし5月、特別養護老人ホームや認可保育園などを運営する社会福祉法人「母子育成会」の前理事長が、確認されているだけでも約8億4690万円ものおカネを私的に流用していた問題が発覚しました。

川崎市は当該法人に対して土地を無償で貸与しているほか、各種事業に補助金を支出していることから、当然のことながら監査責任が問われるところですが、残念ながら川崎市当局による監査では前理事長による横領を発見することはできませんでした。

そこで川崎市は、当該法人への「監査等に係る検証」を行うこととなりました。

具体的には、これまでの監査手法の適正性などを外部有識者(弁護士、公認会計士、学識経験者の3人)を使って次の三つを検証するらしい。

①社会福祉法に基づき本市当局(健康福祉局)が当該法人に対し実施した過去の監査の適正性

②当該法人役員等への市退職者の役員等就任状況及びそれに伴う法人運営等への影響

③当該法人に対する市有地の無償貸付けの適正性

以上の三つですが、因みに③は私が6月定例会で問題視したことを受けてのものです。

今後は、月に1回のペースで個別もしくは集合形式で外部有識者による検証が行われ、来年3月に「検証報告書」が公表される予定です。

しかしながら、誠に手前味噌ではありますが、10月4日の川崎市議会(決算審査特別委員会)で行った私の質疑を見て頂ければ、すでにほぼ答えは出ているのではないでしょうか。

質疑の様子については東京新聞さんが実に詳細に報道してくださいましたが、川崎市による福祉施設への市有地の無償貸与については母子育成会だけの特有な問題ではなく、もっと全市的、歴史的、構造的な根深い問題です。

今回事件を起こした前理事長の深瀬氏のケースは氷山の一角で、もっと巧妙に目立たず甘い汁を吸っている法人がいくつもあるのかもしれません。

少なくとも、母子育成会の横領問題だけに注目をしても本来的な解決には至らない。

10月4日に私が市議会で示したグラフを見てのとおり(下記参照)、他の政令指定都市に比べて川崎市だけが突出して公有地の無償貸与が多いのですが、それにはそれなりの理由があります。

その理由については、昨日の当該ブログで私の仮説を示しております。

簡単に箇条書きにしますと……

🔳戦後、経済的復興の途上にあった昭和40年代ごろまでの我が国では、高齢者施設の不足から施設に入所することができない貧困高齢者が急増し、それが社会問題化していた

🔳そうした中、とりわけ革新市政が、公有地(市有地)の無償貸与などを通じて、高齢者施設を増設するという政策を積極的に進めていった

🔳むろん、そのこと自体は時代背景としては正しく、理念としてはけっして間違っていなかった

🔳しかしながら、日本経済の成長に伴い福祉事業者の経営基盤が安定化し充実していったにもかかわらず、とりわけ川崎市の場合、市有地の無償貸与を見直すことなく、事実上の永久的貸与となっていき、それが市職員の再就職先確保等、ある種の利権構造の一部となっていった

……つまり、川崎市では、市所有の土地で福祉施設を運営する場合には「無償貸与は当たり前、そのかわり大勢の再就職も当たり前…」という一種の持ちつ持たれつの構造が徐々に常態化していったものと推察されます。

市の幹部職員が無償貸与している法人に再就職し、しかも理事長など法人のトップに居座ること自体、市民からあらぬ疑いをもたれかねず、「市有地の無償貸与は再就職補助金ではないのか…」と言われても仕方がありません。

また、特定法人だけに市有地を無償貸与することは、公平性の観点からも大きな問題ですので、当該問題を「母子育成会問題」として矮小化してはならないと思います。

残念ながら、このたびの3名の有識者による検証対象は「母子育成会への監査等に関わる検証」となっていることから、私の仮説以上の検証が為されることはなさそうです。