きのう、岸田政権の経済政策を総括する座談会が都内のホテルで開かれたらしい。
報道によりますと、出席した岸田総理が賃上げの実績を強調し、「定着には秋から2025年にかけて重要な時期が続く。次の政権に委ねなければならない課題だ」と発言したという。
総理は「賃上げの実績」と言うけれど、政治家や政策担当者が注目しなければならない賃金は「実質賃金」です。
実質賃金とは、物価変動の影響を除いた実質的な賃金のことで、労働者が給与で購入できる物品やサービスの量を表します。
例えどんなに給料(名目賃金)が上がっても、それ以上に物価が上昇しているのであれば、それは実質賃金の下落です。
毎月発表される実質賃金は前年比(指標)で示されるのですが、岸田総理は実質賃金を26ヶ月連続で下落させた悪名高き記録保持者です。
もしかすると「記録を26ヶ月連続にとどめたことを評価してほしい」とでも言いたいのでしょうか。
上のグラフをご覧のとおり、長期時系列でみた実質賃金は1997年をピークにして約四半世紀にわたり下落しつづけています。
実質賃金が再び1997年水準に向けて力強く継続的に上昇しはじめてこそ、はじめて「賃上げの実績」と言えるのであって、26ヶ月連続で実質賃金を下げておきながら、よくもまぁ実績などと言えますね。
さて、1991年にバブル経済が崩壊した以降も1997年までは実質賃金は上昇していた点がポイントです。
1997年以降に実質賃金は下落しはじめたわけですが、この四半世紀にわたり政権を担ってきたのは主に自民党です。
いったい彼らは何をやってきたのか?
経済面において自民党政権が行なってきたのは、株主利益を最大化する政策です。
例えば、1997年に商法が改正され、ストックオプション制度が導入されました。
ストックオプションとは、報酬の一部を自社株で受け取ることができる制度です。
これにより、人件費(従業員の首)を切り捨て会社の株価を上げることで儲ける経営者が現れました。
さらに2001年の商法改正によって新株予約権制度が導入される一方、ストックオプションの普及が促進される措置がとられています。
自社株買いについても目的を限定せずに取得・保有することができるようになりました。
さらに2003年の改正商法では、取締役会の決定で機動的な自社株買いができるよう規制緩和が行われています。
また、この改正商法によって米国的な社外取締役制度が導入され、外資による日本企業の買収が容易になりました。
つづく2005年には会社法が制定され、株式交換が外資に解禁されています。
一方、雇用面では、1999年に労働者派遣事業が製造業などを除き原則自由化、2004年には製造業への労働者派遣も解禁されました。
2001年には確定拠出型年金制度が導入され、要するに年金は従業員の自己責任で運用しろとなりました。
安倍政権時代には、年金基金の株式運用枠が拡大されています。
このように、1990年代から2000年代にかけての自民党政権は、株主利益を最大化するための政治を行ってきたのです。
どれもこれも雇用を不安定化させ、実質賃金を下げる政策ばかりです。
すなわち、実質賃金の下落は株主利益最大化の犠牲であり代償だったのです。
そして、株主利益最大化のベースとなっているイデオロギーこそ、新自由主義です。
結局、岸田総理は「新自由主義からの脱却」を掲げながら、何ひとつその公約を果たせませんでした。
新たな総裁が誕生しても、おそらくは無理でしょう。
総裁が誰に変わっても、きっと自民党は変わらない。