国土交通省関係の公共事業費をみますと、ここ数年の当初予算は5.2〜5.3兆円で推移してきました。
そして1.5〜1.8兆円の補正予算を上乗せし、年間で概ね6〜7兆円規模の公共事業費をこれまで維持してきたのですが、さすがに南海トラフ巨大地震が迫っていることもあって、国交省は来年度(2025年度)予算案の公共事業費の概算要求について6兆2899億円を計上しました。
6兆2899億円は今年度比で19%増となり、6.3兆円規模の当初予算を組むのは2003年以来、21年ぶりになります。
南海トラフや首都直下型などの巨大地震に備え、上下水道一体での耐震化のほか、密集市街地対策や住宅の耐震改修などの補助制度を拡充するようです。
といっても、この程度の増額ではまだまだショボいのですが…
また、川崎市議会議員としても気になったのは、概算要求に羽田空港へ向かう新ルート「蒲蒲線(新空港線)」の整備費用が盛り込まれていることです。
蒲蒲線とは、JRと東急線が乗り入れている蒲田駅と、そこから約800メートル離れている京急線の蒲田駅を結ぶ鉄道線のことで、大田区は2030年までの開通を目指しています。
国交省が公表した概算要求(2025年度)には、整備主体である第3セクターが調査や設計にあたるための補助金(3000億円)が計上されており、国交省が概算要求で蒲蒲線に関する費用を計上したのは初めてのことです。
たかだか800メートルの延長とはいえ、初年度だけで2900億円の経済効果が見込まれています。
なにせ蒲蒲線が整備されることで、ついに渋谷駅と羽田空港が大田区を経由して直結することになります。
羽田への鉄道アクセスの悪い川崎市が、また劣勢に立つ可能性を私は懸念しています。
大田区は蒲蒲線の整備にあわせ「アクセス向上を最大限に生かすために魅力ある街づくりに力を入れていく」という決意を表明しています。
因みに、蒲田駅付近は、2012年に京急の上下線がすべて高架化されています。
この事業効果も実に大きなものでした。
例えばそのお陰で、箱根駅伝の名物であった国道15号を横切る踏切が撤去されるなど、踏切遮断時間が1時間あたり最大53分もあった踏切を含めて蒲田近辺の全28の踏切が撤去されました。
当然のことながら、交通渋滞は緩和され、地域を行き交う人々の便益は確実に高まりました。
高架事業の事業規模は約1892億円だったのですが、当該事業では用地費等の取得が少なかったために、1892億円のほとんどが、公的固定資本形成としてGDPに計上されたことになります。
むろん、その数字はフローの効果のみです。
それ以外にも、ストック効果(資産効果)があります。
例えば、自動車交通量が1日1万1489台もあった梅屋敷第4踏切、2万2944台の京急蒲田第1踏切が撤去されたことで慢性化していた交通渋滞が解消されました。
また、第1京浜や環状8号線など、近隣の幹線道路の交通渋滞も緩和され、すなわち「早く移動することが可能となった」ことにより、地域経済の生産性(GDP)が高まりました。
その効果は、以後何十年にもわたり継続するのでございます。
加えて、新たに蒲蒲線という新空港線を2030年までに整備することで、当該地域は更なるフロー効果とストック効果を得ることになります。
むろん、公共事業には防災対策としての効果もあります。
投資のないところに成長はありません。
「人口が減るから、もう大型公共事業は要らない…」などと、インフラの力を理解できない今の川崎市に、未来はあるのか。