国土への働きかけ

国土への働きかけ

日本列島には、とにかく雨が降る。

我が国の年間雨量は、国土面積を総平均しても1,600mmだと言われています。

地表平均(世界平均)が800mmであることから、その分、水資源の豊富な国でもあります。

日本人がおコメ(稲作)を主食としてきた歴史には、そうした自然的背景に加え、先人たちによる治水インフラの整備がありました。

水という天然の恵みの恩恵に預かるためには、水を治める努力を惜しんでならなかったのです。

なぜなら、雨が降るといっても、1,600mmの雨が時間的にも地理的にも常に平均的に降ってくれるわけではないからです。

現在、台風5号が北上中ですが、今朝も太平洋沿岸部の一部地域で1時間に50mmから80mmというバケツを引っくり返したような災害級の大雨をもたらしました。

台風期、梅雨期になると一気に降雨量が増えてしまうのは我が国土の宿命です。

大陸国などに比べ我が国土は、山が悉く急峻で河川は細く短いことから、滝のように流れてくる水を貯めて制御するのが極めて困難です。

日本全国にある全てのダムや溜池で貯めることのできる水量は約300億トンです。

これが多いのか少ないのか、分かりづらいので一例を挙げます。

米国にはアリゾナ州とネバダ州の州境であるコロラド川の峡谷にフーバー・ダムという多目的ダムがあります。

このフーバー・ダムだけで貯めることのできる水量は、なんと約300億トンです。

中国にある三峡ダムは300億トンをはるかに超えます。

お解りでしょうか。

確かに我が国には水(雨)に恵まれているものの、雨季が非常に限定され、多くの水を貯めることができないために頻繁に渇水が起こっています。

むろん、我が国は台風の通り道であるため、雨のみならず強風にも晒されます。

南太平洋あたりで発生した台風は大陸に向かって北上しますが、中国大陸から吹く強力な偏西風によってブレーキがかけられ、沖縄あたりで急に右旋回します。

運が良ければ、台風はそのまま太平洋に抜けていきますが、大抵の場合、日本列島をレールにするように北上していきます。

ある年では、10個の台風が列島に上陸したこともあります。

雨や風だけではありません。

豪雪もあります。

ご承知のとおり、冬になるとシベリアから寒風が日本列島に向かって吹いてきます。

その風が列島の脊梁山脈にぶつかる直前には対馬海流という暖流が流れていることから、寒風は暖流の湯気によって一挙に雪となり、北陸、東北、北海道に豪雪をもたらします。

豪雪地域の生活の過酷さは、改めて言うまでもないでしょう。

加えて、地震もあれば津波もある。

このような過酷な国土条件のなかで我が祖国の歴史は紡がれてきました。

そして先人たちは、インフラ整備など国土に働きかけることで国土の恩恵を最大限に享受してきたわけです。

どんなに科学技術が発達しても、自然災害を予測することは困難です。

能登半島地震も東日本大震災も阪神淡路大震災も、誰も予測できませんでした。

だからこそ、いつ災害が起きても被害を最小化できるように、私たちは常に国土に働きかけていかなければならない。

その「国土への働きかけ」が、愚かにも「財政収支の均衡」を理由に蔑ろにされています。