去る6月12日、改正雇用保険法が施行されたのをご存知でしょうか。
昨年4月1日からも雇用保険料率の引き上げが行われていますが、今後さらに上がります。
少なくとも今回の改正は、国民経済にとって大改悪であることに間違いはありません。
まず、2025年4月から自己都合退職の給付制限期間が1か月間に短縮されます。(政府は自己都合退職を後押ししたいのか)
例えば会社を退職すると離職票が発行され、それをハローワークにもっていくわけですが、直ぐに失業給付金がもらえるわけではありません。
本当に失業状態なのか、不正受給の可能性はないのか、などのハローワーク側が調査するための待機期間(7日間)があり、待機期間後、退職が定年退職や会社都合の場合は約1か月で失業給付が振り込まれ、退職が自己都合の場合、これまで2か月間待たければなりませんでした。
それが1か月に短縮されることになりました。(以前は3か月でした)
因みに、離職日の1年以内か、離職期間中に雇用の安定・就職の促進のための教育訓練を受けていた場合、待機期間後すぐに給付されます。
それだけではありません。
教育訓練給付制度も拡充されます。
例えば、専門実践だと受講費用の最高70%(年間上限が56万円)だったのですが、それが80%(64万円)にアップされます。
それほどに政府は自己都合退職をさせたいらしい。
おそらく政府は脆弱な中小企業を速やかに淘汰したいのでしょう。
いわゆる「グローバリズム経済」「新自由主義」って奴です。
なお、来年10月以降には、さらに大きな改正が行われます。
具体的には、教育訓練給付を拡大し、新たに「教育訓練休暇給付金」がもらえるようになります。
すなわち、勉強のために休職しようとする人には政府がおカネをだしますよ、という制度です。
対象者は雇用保険期間5年以上で、失業手当と同じ金額がもらえます。
つまり、未だ会社を辞めていないのに失業手当がもらえるわけですね。
ちなみに、雇用保険に加入していない人も使える新たな融資制度も検討されているのだとか。
さらに2028年10月からは、パート・アルバイトの雇用保険への加入条件が週20時間から週10時間に変更されます。
要するに仕事を辞めても失業手当や再就職手当をもらうことができ、教育訓練も受けられるようになり、さらには介護休業も可能で、育児休業の給付金も受けられるようになります。
ここまで聞くと、一見、いい話のように聞こえます。
ところが、ところが…
当然のことながら雇用保険が拡充されることで、経営基盤が脆弱な中小企業はさらに経営が苦しくなることになります。
例えば時給1,000円のパートさんが、1日5時間、1か月に15日間の出勤をした場合、月給は75,000円になります。
一般的な業種の場合、雇用保険の会社負担は712円になります。(建設業や水産業の保険料率はもっと高い)
といっても大した金額ではないのでは…
と思うかもしれませんが、週間就業時間が20時間未満の雇用者数は全国で約500万人います。
経営基盤が脆弱な中小企業にとっては結構な負担ではないでしょうか。
むろん、労働者側の保険料率だって引き上げられることになります。
政府はその理由を「育児休業給付を受け取れる対象を拡大するための財源確保だ…」としていますが、はたしてどうか。
例えば、パート約500万人に対し、育休受給者数は48万人程度ですので、政府負担のほうが明らかに少ない。
つまり、保険料として政府が回収する金額のほうが、すなわち政府の取り分のほうが政府の持ち出しより大きいわけです。
これでは「育休を口実に広く増税している」と批判されても仕方がない。
実質賃金が26か月連続減少で弱りきっているサラリーマンの手取りをさらに減らそうとしているのですから、ほんとうに鬼のような政府です。
岸田総理は「増税メガネ」と言われるのが嫌だから、せめて「保険料引き上げメガネ」と言われたいのかもしれない。